コメディ・ラブ
仁義の女
小山旅館の前まで来た時、私はどこまで人がいいんだろうと思った。
けれども、哲ちゃんには普段から世話になりっぱなし、この晃って男(年上なのでこれからは渋々晃さんと呼ぶことにする)には
…………
そうそう、怪我させたっていう借りがある。
仕方がない。仁義を大事にする女、山村美香ここで恩義かえさせてもらおう。
案の定、拗ねて自分の仕事放り出す馬鹿女はそう簡単には部屋から出て来ない。
ドア越しに優しく呼び掛ける
「優海ちゃん、いきなりなんでもうまく出来る人なんていないよ」
「優海できないもん。」
イライラしたらいかん。落ち着け。
怒りを押し殺し、とても優しく言う。
「できるかできないかは自分で決めることじゃないよ」
「優海はアイドルだからできなくて当然なの。女優になるわけじゃないし」
優海ちゃんの予想以上の回答に我慢できず、拳を握りしめた。
そうとは知らない優海ちゃんはさらに続けた。
「明日東京に帰って、社長にお願いするんだもん。監督がひどいこと言って優美のこといじめるって」
駄目だ。限界だ。
ドアを思いっきり蹴った。
幸運なことにドアの鍵が外れて開いた。
晃さん(呼びたくないが仕方がない)の声が廊下に響く。
「うそだろう」
部屋の中では少女マンガを持った優海ちゃんが口をぽかーんと開けたままこちらを見ている。
後ろの使えない男二人は、ただ黙って見ている。
「……優海ちゃん、お酒一緒に飲もうか」
何か言わなければならないと思い、私の脳内から必死にひねり出した言葉がこれだった
自分の馬鹿さ加減に呆れた。
作品名:コメディ・ラブ 作家名:sakurasakuko