MILKY WAY
貴男が私の身体に唇を触れて、愛の扉を開こうとする。私の身体という小宇宙は、素直にそれに反応する。
さんざめく星たちは愛の言葉を呟きながら、貴男と私を地球から掛け離れた時間の流れへ誘う。遠く巡る時の揺らぎ。閉じた宇宙が徐々に解放される。
お互いの小宇宙は重なることを望んでいる。
「いいかい……?」
「ええ……」
貴男の小宇宙が、私の小宇宙の中に入ってくる。同時に私の中の幾多の星々が崩壊する。華々しく散る星たち。そして無数の銀河が、その渦巻きから解放される。
私の瞳から流れ星がこぼれ落ち、頬を伝う。
しかし、すぐに星は生まれ変わり、青白き炎をたぎらす。水素を燃やし、ヘリウムに変えながら、やがて灼熱の巨星になる。プロミネンスの火柱が立ち上がる。
そう、貴男と私は「愛」という物質の圧縮から生まれた、運命の二連星。
そのまま、空間と時間は遥か彼方へと飛んでいく。そう、何万光年もの彼方へと。
宇宙は生きている。生命の息吹で溢れている。
それを象徴するかのように、貴男は愛の彗星を私に送り込む。
彗星はこの地球上に生命をもたらしたと唱える学者もいることを、微かな意識の中で私は思い出す。
愛の語らいが終わり、お互いの小宇宙は離れ、閉じられていく。
貴男と私は天然のプラネタリウムを見つめる。大河を渡るエアプレインの渡し舟。星たちは優しく語りかけ、貴男と私の愛の小宇宙に賛辞を送ってくれている。もう私は星空を怖がることはない。
「天の川って英語でMILKY WAYって言うんだよ。ほら、ミルクを流したようにも見えるだろ?」
貴男の瞳の中の星が笑った。私も知ってはいたが流されてみる。
「本当、ミルクみたい……」
私は思い出す。貴男が私の小宇宙に注ぎ込んだ彗星もミルクの色をしていることを。それは私の中を滔々と流れているに違いない。
明日もまた、悠久の時の流れの中で、貴男と愛の小宇宙を重ね合いたいと思う。
(了)