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Maria Magdalene

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(結論)
 彼は靴をつくっていて、それは彼の一部だった。彼はいつだって工房に居た。静謐で神聖な彼の居場所であった。
「めぐむ、わたしがあなたにあげるのはこれだけ」
 充分だ、と彼は彼女のふくらはぎに指を這わせた。あるいはその口づけのような仕草は彼女にとって何より残酷だった。恍惚とともに失望があった。嫌悪とともに渇望があった。せめぎ合う心情と肢体との矛盾に彼女は自らを持て余していた。彼はそんな彼女の足首とかかとを緩く捕らえながら、爪先から靴を嵌め容れた。そしてするりとかかとまで完璧に嵌まったので、彼は満ち足りていった。それは彼の愉悦の瞬間であった。夜の工房に漂う閉塞と寂静において、そのときこそ彼と彼女は幸福なのだった。
 それはひとつの芸術であった。愚かしくもくり返される、夜夜中のひとときである。
作品名:Maria Magdalene 作家名:藤中ふみ