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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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ゲイカクテル 第1章 ~GOOD LIFE~

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 オーランド紛争はアンドロイド戦争終結の二年後に起こった。突如共和国軍の戦車が国境を突破して攻撃してきたのである。共和国と国境を接しているオーランド郡は一夜にして混乱に陥った。帝国軍はすぐに出撃したが、終始押され気味であった。そこでオーランド郡にはない特殊部隊をホランド郡から招集した。ショーンが司令官となり、特殊部隊は共和国に潜り込み、スパイ活動を行った。もちろんアレックスもである。一年後に次の特殊部隊がまたホランド郡から招集され、アレックス達の部隊は引継ぎをし、前線で戦った。それから一年間は膠着状態が続いた。
 戦いが激化したのは、通称酒屋潰しの夜からである。その日の昼に共和国軍の総攻撃があるという情報を得た帝国軍は準備万端で臨み、勝利した。その夜、若い士官達が近場の酒場で呑んでいる時に、夜にも総攻撃があるという情報が舞い込み、帝国軍は慌てた。若い士官達を呼び戻す間に、共和国軍の輸送機からパラシュートを着けて戦車が空からやって来たのである。そして次々と酒場を潰して回った。帝国軍も戦車で応戦し、爆撃機で新たな基地を破壊して回った。
 一夜明けると、酒場は全て潰れ、悲惨を極めていた。そして地下にある司令室の天井が落ち、ショーンは下敷きになって死んでいた。その後部隊はアレックスを中心にして活動し、国境線を元の位置に戻した。その時点で当時の皇帝トリビアーノ八世と共和国首相が和平を結び、三年間続いたオーランド紛争は終結を迎えた。アレックスは一年で国境線を戻したというコトで大佐に昇格したが、一年後に除隊した。そしてアンドロイド戦争後に知り合ったビリーとオール・トレード商会を始めた。
「ショーンと出会ったのはいつだったかしら」
「私が十八の時で、まだ医学校に入りたての頃でした。ショーンは二十八でした」
「そう、二年後に結婚したのよね」
「はい。幸せでした」
「ビリーも戦争後、ここで一緒に住んでいたものね」
「はい。その節はお世話になりました」
「最初はアンドロイドだと聞いてびっくりしたけど」
「もう当時はバイオロイドになっていましたけどね。親分が改造してくれたものだから、お酒吞めなくなってしまいました」
「そうよねぇ。最初、知らずに吞ませちゃってごめんなさいね」
「いえいえ。吐いてしまいましたよね、私」
「アレックスは大酒吞みだから、ストッパーが欲しかったのね」
 四人で笑った。確かにアレックスはザルだ。幾らでも酒が入る。いつもディータで一杯ひっかけ、たまに明け方の閉店までジャック・ダニエルを呑んでいる。おかげで仕事がない時は家計のやりくりで大変だ。いつもビリーは頭を抱えている。これでギャンブルに手を出していたら、もう火の車だ。
「あぁ、おかしい。お酒はほどほどにね」
「えぇ。でも呑んでしまうんです」
「私が軍人だった頃は食糧保管庫の番をやっとってな。賞味期限切れのコンビーフをよく食べとったよ。あと将校用の葉巻も吸ってたなぁ。もちろん酒も」
「何やってんですか、お義父さん!」
 また四人で笑った。幸せな時間だ。ショーンともこんな時間があったのをアレックスもビリーも思い出していた。よく夜に三人で談笑した。ショーンはバーボンのレッド・ブリードを、アレックスはジャック・ダニエルを、ビリーは紅茶を友に。あの頃が懐かしかった。
「いやぁねぇ、ウォーレンス。そんなコトしてたの? 私初耳よ」
「もう時効だろう」
「そうだけど、もう」
「ウォーレンスさんもやんちゃだったんですね」
「若い頃はな。アレックスは未だにジャック・ダニエルか?」
「はい。お義父さんはレッド・ブリードでしたよね」
「今はスコッチのザ・フェイマス・グラウス・ファイネストにはまっとるわ。本場じゃ最も人気が高いんだよ。ビリーはサンドラと一緒で紅茶か?」
「はい。今はマルコ・ポーロです」
「あら、マルコ・ポーロなの。バニラの香りがしていいわよね」
「はい。お砂糖を少し入れると、なお美味しく頂けます」
「そうなの。じゃあ、今度やってみるわね」
「じゃあ、そろそろ行こうか、ビリー」
「そうですね」
「あら、もう行っちゃうの? 夜も一緒にと思ったのに」
「ちょっと今朝仕事が入ってしまいまして」
「そうなの。大変なお仕事?」
「厄介にものです。もしかしたらオーランド郡に行かなければならないかもしれません」
「気を付けてね。まだ治安が悪いって聞くから」
「はい。ありがとうございます。お義父さんもお義母さんもお元気で」
「またいつでもいらっしゃいな」
「はい。寄らせて頂きます」
 四人は席を立った。アレックスは花束を忘れずに持って玄関まで行った。
「ではショーンのお墓参りに行ってきます」
 サンドラとウォーレンスは手を振って見送り、アレックスとビリーはお辞儀をしてウィンタース家を後にした。
 その足で今度は北へと歩いた。広場に戻り、アネッサ通りを抜けると線路に出る。一旦、踏切で汽車の通過を待って、また北へと歩く。しばらく歩いて西に入るとハロルド通りに出る。ホランド郡軍司令部の重厚な総石造りの建物が見える。司令部を通り過ぎ、北に入る。司令部の裏手にあるオルテガの丘が軍人墓地になる。
 入口の左右に立っている警備兵に一礼して中に入り、ショーンの墓を目指す。墓は戦士年代順に立っている。十二年前の列に行く。ショーンの墓は列の中程にあった。二人は墓の前でしゃがみ、花束を十字架に立て掛けて十字を切った。そしてアレックスは左手にキスをし、その手を地面に埋められた石板にそっと置いた。石板には生没年と名前、最終階級の大将と彫ってあり、大理石で作られていた。