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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
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ゲイカクテル 第1章 ~GOOD LIFE~

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昼になり、アレックスとビリーは中央広場の近くにあるマリアの花屋、フローレンスに行った。注文した花束を受け取るためだ。マリアは奥の作業台にいた。二人はマリアに近寄り、声を掛けた。
「こんにちは」
「あら、アレックスにビリー。こんにちは。気付かなかったわ」
「花束を受け取りに来たんだけど、できてるかな」
「えぇ。ちょっと待ってね」
 マリアは作業台の後ろにあるショーケースから花束を取り出した。カサブランカとかすみ草、白のカーネーションにオレンジとピンクのガーベラだった。アレックスは喜んだ。
「オレンジのガーベラ。ショーンが好きなんだ」
「そう。ちょうど手に入ったから混ぜといたわ」
「ありがとう。いくらかな」
「五千バックスよ」
 アレックスは財布から五千バックス紙幣を一枚取り出して、マリアに手渡した。
「はい、ちょうどいただきます。またよろしくね」
「こちらこそよろしく」
 アレックスは花束を受け取り、ビリーと共に店を後にした。
 今度は広場の北側、レストランやスイーツ店、パン屋等の飲食店が軒を連ねるアネッサ通りに向かった。レインボー・ストリートの東隣の通りだ。二人は広場に近いスイーツ店、アッシュに寄り、名物のロールケーキを二つ買った。ビリーがロールケーキの入った箱を持つと、二人はフォレスト通りに向かった。フォレスト通りにはショーンの両親である、サンドラとウォーレンスが住む洒落た洋館がある。そこに向かいながら、二人は今この帝国で流行っているフラッグフットボールについて語り合った。
 フラッグフットボールとは要はミニアメフトのコトで、防具を着けない代わりに両腰にフラッグを垂らし、それを取るとタックルになる。後はアメフトと同じルールだ。ホランド郡にも幾つかチームがあり、郡大会も行われる。優勝すると各郡の優勝チームと帝国一を決める大会に出られる。リーグも色々とあり、レディース、ミックス、シニア、ジュニアと分かれている。現在の皇帝、アドリアーノ四世がフラッグフットボールを奨励していて、学校の体育の授業や部活でも行われている。部活でも帝国一を決める大会がある。そして人気を二分しているサッカーと共に、公認のギャンブルもある。もちろん部活は対象外で、クラブチームだけである。クラブチームは企業系と私設系とあり、区別なしに試合で当たる。今はタマラ製紙のクォーターバック、ケネス・ロッドマンが一番人気だ。
 そうこうしている内にウィンタース家に着いた。鉄製の門扉の脇にあるインターホンを押す。サンドラの声がして、アレックスが名前を告げると門扉が開いた。フットパスを歩いていると、玄関からサンドラとウォーレンスが出迎えに出てきてくれた。
「やぁ、アレックス、ビリー。一年ぶりだな」
「御無沙汰しております」
「さぁさ、入ってちょうだいな」
「失礼します」
 四人は中に入り、ダイニングへと向かった。するとテーブルには昼食が並んでいた。アレックスもビリーもまだ昼は食べていない。
「さぁ、みんなでお昼を食べましょう」
「弟さんと妹さんは?」
「お仕事で夜にしか来られないらしいわ」
「そうかぁ。残念だな」
「さぁ、座って」
 アレックスは席に着くと左隣の椅子に花束を置いた。右隣にはビリーが座り、向かいにはサンドラとウォーレンスが座った。
「あの、これ、よろしければ皆さんで召し上がって下さい」
「何かしら、ビリー。……あら、アッシュのロールケーキじゃない。好きなのよねぇ、ウチの家族全員」
「それはよかったです」
「さぁ、食べましょう」
「はい、いただきます」
 二人は声を揃えて言った。昼食はアルフレッドとトマトとオリーブのピザにレタスとベーコンのスープだった。アルフレッドは粉チーズとオリーブオイルを和えたパスタだ。
 四人は色々話しながら食べた。アレックスとウォーレンスはフラッグフットボールについて、ビリーとサンドラは料理について語り合った。
 昼食を摂り終えると、今度はデザートタイムだ。サンドラ手作りの木苺のタルトと紅茶が運ばれてきた。紅茶は東洋のラプサンスーチョンだった。スモーキーフレーバーが特徴の紅茶だ。
「珍しい茶葉が手に入りましたね」
「そうなのよ、ビリー。友達が清に旅行に行ってね、買ってきて下さったの」
 また他愛もない会話で盛り上がったが、いつの間にか戦争の話になっていた。
「私が軍人だった頃は戦争はなかったが、二人は経験しているんだよな」
「はい。私は十年続いたアンドロイド戦争で恋人を亡くしました。死にたくても死ねない体なので辛かったです」
 アンドロイド戦争は今から二十六年前に起こった、タイプX-Ⅳと呼ばれる工業アンドロイドの暴走が招いた戦争である。東隣のタンジールランド郡の最先端研究都市ホムンクルスで起きた。ホムンクルスはアンドロイドの研究が盛んで、今までにタイプX-Ⅰ、X-Ⅱ、X-Ⅲ、X-Ⅳを生み出した。タイプX-Ⅰは警備用、タイプX-Ⅱは家事、子育て、医療では介護をしている。最高傑作と呼ばれているのがタイプX-Ⅲである。つまりはビリーだ。
 タイプX-Ⅲは昔御法度だったゲイを隔離していたゲットーで使用された。髪の色も目の色も肌の色も多種多様で、体格もマッチョから痩せ型まで、身長も高いのから低いのまで、年齢も老人から子供までいた。人間のレズビアン、バイセクシャル、ホモセクシャルをホムンクルスの一画に作られたゲットーに住まわせ、タイプX-Ⅲに相手をさせた。研究員はそれを観察していた。ゲットー内はなかなか快適で、住まいは2DKのマンション、酒場もクラブもダンスホールもスーパーマーケットも会社もあった。いずれも人間でもタイプX-Ⅲでも働けた。
 次が問題のタイプX-Ⅳだ。工業用に造られたアンドロイドは、未だに原因不明だが、突如暴走を開始した。勝手に兵器を作り、研究員を襲い、建物の内部をデータもろとも破壊した。そして研究所を飛び出し、暴走はホムンクルス全体に広がった。もちろんゲットーもターゲットになった。帝国軍が出撃し、戦果はなんとかホムンクルス内で収まったが、戦争は長引き、近隣の帝国軍までもが招集された。アレックスは帝国軍医学校を卒業と同時に衛生兵として派兵され、二年後に戦争の終結を迎えた。爆撃機に戦車、特殊部隊も注ぎ込んでの戦争だった。ショーンも特殊部隊員だったので派兵された。現在、ホムンクルスは元の形に戻ったが、データを破壊され、当時の研究員も皆殺害されたために、タイプX-Ⅱまでしか造れなくなった。
「当時アレックスは大尉だったんだよな。医学博士だったから。それで衛生兵として多くの命を救った功績を認められて少佐になったんだったな」
「はい、そうです。その後特殊部隊隊員養成所にスカウトされて、二年間色々と叩き込まれました。卒業して中佐になりました」
「首席だったからな」
「そのようですけど」
「ショーンはあの当時大佐だったなぁ。オーランド紛争の前に少将になったが」
「オーランド紛争のコトは思い出したくもありません。ショーンが戦死したので」
「そうだなぁ。まだ四十だったもんなぁ」