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水井 孝輔
水井 孝輔
novelistID. 44160
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おかしなおかしなお菓子の国

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昔々、あるところに、おかしの国がありました。おかしの国はおかしな国です。なぜおかしいかというと、国中のものが全て、お菓子でできていたからです。家もビルも、道路も橋も、机も椅子も、み~んなお菓子でできていたのです。
 さて、どうしてこの国がこんなふうになっているかというと、そのわけは、この国の王様が……、

お菓子が、何よりも大好きだったからです。

王様は、宮殿にいるときも、街へ出かけるときも、山へ狩に出かけるときも、「食べたい!」
と思ったとき、すぐにお菓子が食べられるように、新しい法律を作り、建物も、橋も、公園のベンチもお菓子を使って造らせました。例えば、橋のらんかんは飴の棒でできていました。また、お城の石垣はアワオコシでできていました。そのほか、屋根は瓦せんべい、壁はホワイトチョコ・・・・・・といった具合です。
王様はしばらくの間、たいへん満足でした。思ったとおりの街ができ、思ったとおりに、王様はいつでもどこでも、お菓子を好きなだけ食べられるようになりました。
しかし、しばらくたった頃、国のあちこちでいろんな事件が起きました。
ある場所では橋が崩れ、またある場所では壁が倒れました。それは、町や、村の人々が、夜の間にこっそりあちこちで、お菓子でできた建物をバリバリ、パリパリ食べたり、ペロペロなめたりしていたからでした。何人かの人たちがあちこちで少しずつ食べていたので、すぐにこわれはしなかったのですが、何日か、何週間かたつうちに、突然国のあちこちで、いろんな建物がこわれはじめたのでした。
 このことに気がついた王様は、カンカンに怒りました。そもそも、お菓子でできた橋や、建物は王様が食べるために造らせた、王様のものです。それをこっそり食べるなんて・・・・・!
すぐに、王様は命令を出し、お菓子を盗み食いした人たちが捕らえられました。捕らえられた人たちは、みんな牢屋に入れられてしまいました。
来る日も来る日も、次から次へと、たくさんの人が捕まえられて牢屋に入って来ました。
 これで、王様はひと安心。国中からお菓子を食べてしまう人をなくしてしまえば、もう心配はありません。
一方、牢屋の中は、人々でごった返していました。
「あ~あ、なんてこった。お菓子の盗み食いぐらいで、牢屋に入れられちまった。子供じゃあるまいし・・・。いんや、子供だったら牢屋なんかには入れられないよなア」
「そうさ、だいたい国中のものをお菓子で造ったりするからこんなことになったんだ。おれたちが食わなくてもどうせそのうち、アリや犬にくわれちまってたんだ。な、そうだろ!」
ワイワイガヤガヤ・・・・・・。
「おおい、静かにしろ!おとなしくしていれば、そのうち出してやる。そうでないやつは、死ぬまで出してやらないぞ!」
と番人が叫びました。
やれやれ、死ぬまで出してもらえなかったら大変です。仕方なくみんなは静かになりました。
そして、夜になりました。番人は、戸口の方ですわったまま、寝入り込んでいます。



「腹が減ったなア……」
と誰かが言いました。
「おれもだ。ろくなメシ食わせないからなア、この牢屋。あっ牢屋だからしょうがないのか。ブツブツ、ブツブツ……」
牢屋に入れられた人たちが、あんまり多いので、食事の用意が追いつかなかったのです。牢屋の中の人たちは、みんなお腹をすかしていました。
そのうち、今度は身体の大きい男が、叫びました。
「おーい。なんか食わせろ!オレたちを飢え死にさせる気かァ?メシがなかったら、お菓子でも食わせろっ!」
そのとき、牢屋の隅にうずくまっていた、やせっぽちの男が、突然立ち上がって言いました。
「しっ!静かに!」
それは、牢屋に入れられた人の中で一番頭のよい人でした。番人は、一度何かムニャムニャ寝言を言いましたが、またイビキをかき始めました。
「なんだよオ、お前、オレになんか文句あるのかァ……」
とさっきの男が隅にいる男の方をにらみながら言いました。
「違うんだ。静かにしないと、番人が起きると言っているんだ。」
「番人を起こして、食い物を持ってこさせようとしてるんじゃないか。邪魔するな。」
「そんなことしたって、ごはん粒ひとつさえ、もらえやしないぞ。それより、お前はこの牢屋から出たくないのか?」
大きい男は、ムッとして、一歩、二歩と、やせ男に近づいて行きました。そして、そのとき始めて、やせっぽちの男がにぎっている鉄格子が、何かおかしいのに気がつきました。
「お、おまえ一体、何をしているんだ?」
「いいか、よく聞けよ。王様が国中のものを、全部お菓子に造り変えさせた。それをこっそり食ってしまって、オレたちはつかまえられ、牢屋に入れられた。そして、この牢屋も王様が造らせたものだ。ということは……。」
「……ということは、何だ?」
そのとき、となりにいたメガネをかけたじいさんが、声を出しました。
「おまえさんもにぶいのう。この牢屋も……

お・か・し・で、できているんじゃないか!」

「その通り。この格子は、よく見てみろ。黒飴でできている。オレはさっき、なめてみた。ほら、こんなに溶けてきた。みんな、自分の前の格子をなめろ!そして溶かすんだ。静かになっ。牢屋番を起こさないように・・・。」
ヒソヒソ、コソコソ……瞬く間に、この知らせは、一人残らず、その牢屋中の人たちに伝わりました。
暗い夜の間、妙に静かな時間が、ゆっくりと流れました。


そして、東の空が、うっすらと明るくなり始めた頃……、
「ハックション!」大きなくしゃみとともに、牢屋番が目をさましました。
「おお寒い……。なんだか風通しがいいなァ」
と言いながら、ぐるりとあたりを見回しました。広々とした牢屋が目に入りました。
なんかヘンだな……と牢屋番は思いました。
「?!」
おかしい。誰もいない!きのうの夜は、まるで満員電車みたいに大勢いたのに……。そして、格子も全てなくなっています。
よく見ると、格子の残された部分は溶けています。ということは……、
「だっ、脱獄だァっ……!」



王様は、知らせを聞いて、真っ赤になって怒りました。
「逃げた者どもをひっとらえろ!一人残らずな!そうだっ。軍隊だ。軍隊を出せ!」
そして、兵隊たちが、鉄砲をかつぎ、大砲を引っ張って、お城の前に集まって来ました。たくましく、勇敢で、輝かしい、王様の軍隊!
……のはずでした。が、どこかヘンです。
よく見ると、鉄砲の先はかじられて欠け、大砲の砲身は溶けてゆがんでいます。王様の命令で、鉄砲や大砲もお菓子でできていたので、兵隊たちは、ときどき上官の目を盗んでは、食べていたのです。
 隊長が言いました。
「陛下!これでは、戦えません!兵器をお菓子で作るのはもうやめてもらえませんか?」
続いて、今までだまっていた大臣が、
「陛下、このままでは、もうこの国はつぶれてしまいます。」
学者も言いました。
「経済学的立場から考えますと……、もはや、これまでかと。」
最初赤くなっていた王様の顔は、次第に、今度は青くなり、ついには、ブルブル震え出し、とうとうボロボロ大粒の涙を流して泣き始めました。
「なんということだ。エーンエン。もう『何でもお菓子で造れ』という法律は撤回じゃ!」