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University to GUARD 第1章

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第一章 入学・壱

 “正義”。
 頭から離れないまま、アナウンスの指示通りに自室へと六條は向かった。前方を後ろに両手を組んで歩くのは、さっき何故か自身の名を呼んだ女、八条佳織である。歩みを進めるほどに、微妙な違和感を感じる。
―――何故進行方向がずっと同じなのか―――。
 その違和感はすぐに解決された。八条の一言で。
「着いたよ、ここだね」
「あぁ、わざわざ案内までさせてすまない。君も自室に戻った方がいい」
 わかった、じゃあねと言って終わるはずだったのだが。
「うん、そうするところなんだけどね」
 若干はにかみながら八条は部屋へ入って行く。目の前の部屋、すなわち六條の部屋に。
「どういうことだ」
 部屋へと足を踏み入れた八条が振り返る。
「こういうことみたいだね」
 そういって笑うとそのまま中へと入って行ってしまった。瞬時にして脳内に様々な問題が浮かび上がる。が、なによりも問題はこの大学の在学年数である。六年間も異性と同居させられるとは六條もまったく予想していなかった。
 流れに任せて部屋へと入る。部屋には荷ほどきされていない荷物が山のように積んである。確認すらしていなかった。同室が誰なのか。もとい、確認する暇などあるわけがなく、今日のエキシビジョンが大学に来る初めての機会なのだから。各自、荷物を大学充てに送り、各自の寮の部屋に送られるというシステムなのだ。無論、だからとって異性との同居など想像できるわけもない。
「部屋の割り当て、なにかの手違いかもしれないな。ちょっと上の方に掛け合ってくるよ」
「あ、六條君」
 六條は寮を後にし、大学のキャンパスへと戻った。さすがに、女と六年間も同居はまずい。落ち着かない上に何が起こるかわからないのだ。自身の中でも不安が抽象的でイマイチなにがまずいのかわからない。が、とにかくまずいのだ。
「学生生活課、ここか」
 広すぎる“学生館”をさまよい歩き、ようやくたどり着いた。
「失礼します」
 入った部屋はさほど広くはないが、無機質的で非常に閑散としていた。中に職員らしき人間が十人ほどいるだけなのだ。よくこれで大学の運営ができるものだ、と六條は周囲を見渡した。
「すみません、寮の部屋割り当てでお話が」
 一人の女性がすっと席から立つと歩み寄っていた。
「部屋の割り当てはすべて正当に割り当てられていますよ」
 どこと言って特徴はないが、清楚で細身の女性はそう言った。ちょっと不思議なのは、目をじっとみつめても微動だにしないことだ。こちらを見ているようで、遠くを見ているような目をした女性はそういうと席に戻ろうとした。
「待ってください。寮の同部屋に異性を割り当てることは正当なのですか?」
 女性は振り向くと首を少し傾げて、
「正当に割り当てられている、と聞いていますが」
 というと席に戻り、キーボードを触り始めた。これ以上、ここで何か異議を唱えても無駄なようだ。六條は閑散そのものといった学生課を後にし、自室へと戻った。たとえ同じ部屋でも、過ごしようはあるかもしれない。
 再度自室の前に立ち、部屋の前に備え付けられたモニターを見る。
<Room Number 44 八条佳織 and 六條信哉>
「やはり間違いというわけでもないか」
 渋々、ドアの正面に備え付けられた虹彩認証を行い部屋へと入る。
「あ、六條君。どうだった?」
 すでに部屋着へと着替え終えた八条が椅子から立ちあがった。
「いや、特に何もない。収穫ゼロだ」
 荷物が積載され放題の廊下を抜け、居間を眺めた。よくよく考えればこの寮、異性と住んでもさほど問題ないものなのかもしれない。
 防衛大学の学生寮の内部構造は、他と比べれば非常にリッチなものだった。まるでホテルのようだ。ドアから入り、廊下を抜ける間に部屋が二つあり、その横にトイレとバス、廊下を抜ければ広い正方形の居間があり窓に向かうことができる。キッチンは居間の一画に用意されており、すぐ近くにテーブルとチェアだ。部屋にはベッドが備え付けれられていることから、寝るときは一人で寝れるみたいだが、何らかの機械で部屋にて飯を食う場合はもれなく居間という“共有空間”を使うことになる。もっとも、飯を部屋で調理して食べることなど、大抵はないのだが。なぜなら、
「食事まで残り十分となりました。寮生のみなさんは食堂へお集まりください」
 と、いう風にアナウンスが流れ寮内に設置された食堂を利用することが普通だからだ。
「もう晩御飯の時間かー、行こっか六條君」
「いや、俺はちょっと部屋の中片付けてから行くよ」
「そう?手伝おうか?」
「いい、大丈夫だ」
「じゃあ先行くね」
 八条は部屋着にパーカーを羽織るとそのまま出て行った。
「一緒に行くのはさすがにまずいな」
 一人になってようやく息が付けるというものだ。六條は改めて部屋を見渡した。廊下は荷物だらけだが、すでに一部が荷ほどきされ、八条のものであろう荷物がところどころに散在していた。
 初めての寮での食事だ、八条と一緒に行って目立つわけにはいかない。
 部屋を見渡し、無駄に時間を浪費した六條も部屋を後にし食堂へと向かった。さすがにちょっと遅らせたこともあってか、周囲には小走りで行く者もいる。
 寮の階段を下り、一階に設けられた食堂へたどり着くとすでに膨大な数の学生が着席していた。見るに、どうやら全員新入生みたいだ。この防衛大学は学年別に寮を建物クラスで分けているため、この寮には新入生しかいないのだ。「あ、六條君!」
 先程の無駄な時間の浪費を一蹴するかのような呼び声が響いた。助かったのはざわつく中だったため、こちらを振り向いたのは八条の周囲に座る学生だけだったことか。
 六條の座る席はきちんと八条によって確保されていた。しぶしぶ、八条の隣へを座る。
「わざわざすまないな。毎度こんなことまでしてくれなくいいぞ」
「いいの、せっかくなんだし」
 何がせっかくなのか、は周囲にはわからないだろうが。寧ろわかられたくないので黙るしかない。
 ざわつきが徐々に静まり、食堂に設けられたステージに一人の男が登壇した。
「新入生諸君、入学おめでとう。私は寮長の最前(さいぜん)だ。名前など覚えてくれなくていい、諸君が覚えるべきはこの寮におけるルールだ」
 そういうと最前は淡々と寮の仕組みと守るべきルールを述べていった。学生生活規則に記されたことから、寮に関する代表的な事柄を述べた感じだ。
 そして最前の挨拶も終わり、各席に用意された食事を食べ自室へと戻った。食事中、中には周りの学生に声をかける積極的な者もいたが、六條にそのような気力は無かった。食べてる間、ひたすら脳裏に浮かぶのは食事の後の事ばかりだったからだ。
 すでにその時が来ているわけだが。
「先にシャワー浴びるとするよ」
 この言葉もなんだかおかしな感じだが、といっても他に言いようもない。六條はそういうと着替えを持って浴室へと入りこんだ。そういえば、食事の時から八条の顔を見ていない。そんなことを思いながらさっと体と頭を流すとそのまま勢いで自室へと六條は戻った。シャワー音をかき消すかのように、ドライヤーを当てる。
「明日は“A.C.”デバイス生成のための採血と、その配布か」
作品名:University to GUARD 第1章 作家名:細心 優一