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「舞台裏の仲間たち」 57~58

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 12時前にはすべての視察と打ち合わせが済み、
亀田社長とは工場でそのまま別れ、私は一人で貞園と約束をした
カフェに向かいました。
お店の所在はすぐにわかり、入ろうとしたら背後から貞園の声がしました。
驚いて振り返ると、真っ赤なBMWの運転席に貞園が座っています。

 「あれ、今日はローマの休日は使わないの。
 ブルジョワ階級の高級外車で登場とは、まったくの予想外だ。
 君の車かい、すごいねぇ」

 「まあね、パパからの誕生日プレゼント。
 免許の取り立ては危ないということで、
 鉄板の厚い、頑丈だけが取り柄の車を買ってもらったの。
 でも、ほとんど普段は乗らないわ。
 台北の町はスクーターの方がはるかに便利だもの。
 今日は特別」


 特別な車で、特別な処へ案内をしますと貞園が
上機嫌で、きわめて気持ちよくアクセルを踏みこみました。
雰囲気といい、見た感じといい君は、実はお嬢さん育ちだろうと
何気なく言った瞬間に、貞園が急ブレーキを踏みました。


 「そういう言われ方が一番嫌いなの。
 だからこれにも乗らないし、普段はつとめて地味にしているの。
 私は、私のままで生きているつもりなの・・・・
 やっぱり、スクーターで来ればよかった! 」

 悪気があったわけじゃない、と謝ると、
わかっているわよそれくらい、と、またもや車を急発進させました。
可愛い顔に隠されている貞園の、本来のじゃじゃ馬ぶりを
発見してしまいました・・・・
貞園が選択したのは、台北市からは日帰りで行けるという淡水区の海岸です。
夕日が美しいことでも有名な海岸のリゾート地です。


 台湾北西部の河口に位置していて、かつては台北の外港としても
栄えた過去の歴史をもっています。
17世紀以降には、スペイン人やオランダ人がここに基地をおいていました。
アロー戦争の結果、開港されてからはイギリス領事館や
各国の商館なども置かれるようになり、歴史にまつわる遺跡が数多く
残されていることでもよく知られています。


 ヨーロッパの国々からの文化の影響を受けているということもあり、
どこを覗いても、南ヨーロッパなどの海岸のような雰囲気が漂っています。
海岸線には煉瓦を敷き詰めた洒落たサイクリングロードが続いています。
西から吹く涼しい潮風を受けながら自転車を走らせている人たちがいて、
人影のすくない海岸には、のんびりと散策をする
カップルたちの姿が見えました。

 
 「日暮れ時に、黄金に変わる海の美しさは特別で、
 恋人たちの聖地と呼ばれているの。
 ヨーロッパの海岸に居るみたいだもの、
 ロマンチックに夕日が落ちて行くのを見送ると心までときめくわ。
 ねぇ、ゆっくりしましょう」


 右腕にすがったままの貞園は、梃子でも離れそうにありません。
淡水河の河口に、港町として発展したのが淡水の始まりでした。
水辺の景色の素晴らしさは、台湾屈指のデートスポットにも挙げられていて、
きわめて美しい風景が随所に点在をします。
台北市内から地下鉄や車で約40分というアクセスの良さも手伝って、
台北の人々はもちろん、観光客にも人気があります。


 ロマンチックなムードに包まれる、夕景の美しさには定評があり、
これを楽しむために、わざわざ午後から出掛けてくる人たちも沢山います。
かつてスペイン人によって建城され、オランダ人によって改修がなされ、
その後にイギリス領事館が置かれた紅毛城は、異国情緒を存分に楽しめる
隠れた見どころのひとつとしてもしられています。
此処から眺める夕日には、言葉を失うほどの美しさがありました。
すべてがシルエットに変わっても、貞園は
一向に動く気配を見せません。