窓の涙
窓の涙
日曜日の朝、私は早く目が覚めてしまい、布団から起き出した。いつも二人分敷いてある布団が一つなのが妙に寂しく感じた日から、もう十日になる。私は病院にいる妻と、この春に結婚することになった娘のことを頭に浮かべながら、ようやく明るくなり始めた窓の外を見ようとした。
―窓が涙ぐんでいる― と私は思った。結露がいっぱいついた窓に近づき、さーっとワイパーのように指を滑らせると、その涙は大粒になってすーっと流れてゆく。外はようやく線路の向こう側にあるマンションの上から陽が差し始めたところだった。
「一人になることが多いんだから、携帯買いなよ」という娘の言葉に、あいまいに返事をしていたら、最近娘が「料金は自分で払ってよ」と言いながらプレゼントしてくれた。
私はどうせ電話をする、受けるくらいしか使わないだろうと思ったが、娘が「便利だよ」と言うのでメールの送受信も教えて貰った。その娘はもう二人の新居にいて、今日は自分の荷物を新居に運ぶ予定の日である。妻が入院してしまったので、娘が迷っているのを、予定どおりに進めるように言ってある。