とある王国の物語2
「ただいまー」
玄関の戸を開けると、お帰り、と母がキッチンから返してきた。
靴をそろえ、楽譜の入ったファイルを手にリビングへと入る。
「あら、早かったのね」
「うん、まあね」
振り返った母・高瀬直(なお)は、現在綾と同じく城に勤務している。部署は国王付きの医務官、要は王室の保健室のおばちゃんと言ったところで、クラスメートだった神崎由良の事も幼い頃から知っている。ついでに言えば、父・高瀬慧は王国の政治を取り仕切るちょっとした重役で、帰りはいつも遅い。まぁ、3人とも全く部署が違うので仕事中に会うことはまず無いのだが。
堅苦しい楽隊長服の上着を脱いで、動線上にあったパーカーを拾いソファーに座る。ネクタイを緩めたワイシャツにパーカー、それに白いスラックス。ここ3カ月、音楽隊長に就任してからの綾の定番スタイルになっていた。
「また・・・そんな中途半端な恰好して・・・。着替えるならきちんと着替えなさい」
しかし、母はどうもそれが気に入らないらしい。いつも通りの小言が飛んでくるが。
「どうせあと少しで風呂でしょ?面倒」
やはりいつも通りの言い逃れでかわす。
「風邪引かないでよ?」
「はいはい」
毎日ほぼ同じ会話を繰り返しているが、別に飽きたり反抗したくなったりはしない。理由は単純で、面倒だからだ。
時刻は午後8時過ぎ。洗い物を終えたらしい母は食器を片づけ始めている。
しかし、自分の夕食を用意しつつその動きを見ていると、どこか風景に違和感を覚えた。
最近、帰りが遅い綾を待てないようで、母は一人で先に夕食を食べている。今日のメニューはクリームパスタだ。少々深めの皿に盛り付けたらしい。
――――そこまでは良いのだ。そこまでは。
しかし、何かがおかしい。よーく目を凝らして見てみる。
すると。
「あっ・・・!?」
気がついた。
皿の枚数がおかしいのだ。深い皿が、何故か二枚も出ていた。
高瀬家は三人家族だ。だから当然父、そして自分がいない以上母は一人で夕食を取らなければならない。なのに、主食用の皿が二枚、二枚、二枚・・・。幽霊? いやまさか。
じゃあ何故?わざわざ二枚皿を出してパスタ食うか?いや、あの面倒臭がりの母がそんな事する訳がない。
思考をフル回転させていると、ふと嫌な予感が脳裏をよぎった。
まさか。まさか、まさ、か・・・・・・!?
どうして玄関の時点で気がつかなかったのだろうか。俺は馬鹿かっ?
不気味な予感が確信に変わったその瞬間、綾は盛りかけのパスタをテーブルに叩きつけ自分の部屋へと駈け出した。
玄関の戸を開けると、お帰り、と母がキッチンから返してきた。
靴をそろえ、楽譜の入ったファイルを手にリビングへと入る。
「あら、早かったのね」
「うん、まあね」
振り返った母・高瀬直(なお)は、現在綾と同じく城に勤務している。部署は国王付きの医務官、要は王室の保健室のおばちゃんと言ったところで、クラスメートだった神崎由良の事も幼い頃から知っている。ついでに言えば、父・高瀬慧は王国の政治を取り仕切るちょっとした重役で、帰りはいつも遅い。まぁ、3人とも全く部署が違うので仕事中に会うことはまず無いのだが。
堅苦しい楽隊長服の上着を脱いで、動線上にあったパーカーを拾いソファーに座る。ネクタイを緩めたワイシャツにパーカー、それに白いスラックス。ここ3カ月、音楽隊長に就任してからの綾の定番スタイルになっていた。
「また・・・そんな中途半端な恰好して・・・。着替えるならきちんと着替えなさい」
しかし、母はどうもそれが気に入らないらしい。いつも通りの小言が飛んでくるが。
「どうせあと少しで風呂でしょ?面倒」
やはりいつも通りの言い逃れでかわす。
「風邪引かないでよ?」
「はいはい」
毎日ほぼ同じ会話を繰り返しているが、別に飽きたり反抗したくなったりはしない。理由は単純で、面倒だからだ。
時刻は午後8時過ぎ。洗い物を終えたらしい母は食器を片づけ始めている。
しかし、自分の夕食を用意しつつその動きを見ていると、どこか風景に違和感を覚えた。
最近、帰りが遅い綾を待てないようで、母は一人で先に夕食を食べている。今日のメニューはクリームパスタだ。少々深めの皿に盛り付けたらしい。
――――そこまでは良いのだ。そこまでは。
しかし、何かがおかしい。よーく目を凝らして見てみる。
すると。
「あっ・・・!?」
気がついた。
皿の枚数がおかしいのだ。深い皿が、何故か二枚も出ていた。
高瀬家は三人家族だ。だから当然父、そして自分がいない以上母は一人で夕食を取らなければならない。なのに、主食用の皿が二枚、二枚、二枚・・・。幽霊? いやまさか。
じゃあ何故?わざわざ二枚皿を出してパスタ食うか?いや、あの面倒臭がりの母がそんな事する訳がない。
思考をフル回転させていると、ふと嫌な予感が脳裏をよぎった。
まさか。まさか、まさ、か・・・・・・!?
どうして玄関の時点で気がつかなかったのだろうか。俺は馬鹿かっ?
不気味な予感が確信に変わったその瞬間、綾は盛りかけのパスタをテーブルに叩きつけ自分の部屋へと駈け出した。