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シンクロニシティ

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 日を改め、同意の元、眠らせられる職員。少しずつ投薬する田村。量が増えれば、死に近づく薬物。時間の経過を計る田村。その結果、一定の量で起きたデジャヴュ。投薬前に時間が戻り、再び田村は投薬する。危険な行為。知られれば、懲戒では済まない行為。何度も繰り返し、一人、田村の世界に目覚めた。それを繰り返し、目覚めた者数名。危険なところが怖くなかった。麻痺していた。怪我をした時は、すぐに自害した。怪我をする前に戻るために。

 それは、桜も刈谷も知らない事だった。

---*---



「この世界は違う! お前らの家族に違和感はないか! 我々は今世界に騙されている! 騙されるな!」



「そうだ!」



「俺は騙されねえ!」



「俺もさっき目覚めた!」



「この世界から抜け出すには自分をこの世から消す事だけだ! 何度か目を覚ました時! お前らは本当の世界で目覚める! 俺についてこい! 今は本部で不死現象会議が始まっている! 今が! その時だ!!」



 熱気高まる職員達。目覚めた者は、目を輝かせ、まだ見ぬ者は、期待に胸を膨らませる。

 職員にとって、刈谷は何かを踏み間違えた犠牲者だと。目覚めが中途半端だったため、壊れたと。資質がなかった者だと。

 様々な憶測と、世界に選ばれなかった凡人とされた刈谷。元々自殺もせずに世界を感じられた選ばれし存在となった田村。

 まるで神々しいものを支える天使の気分となった職員の期待。そんな神が、天使を従えて研修室を出ようとした時、桜が研修室に入り立ちはだかる。



「田村。あなた……なにしてるの?」



「チーフ……いや、私は……この仕事への団結力を上げようと皆を導いて」



「この支所では集団自殺に追い込むような講習過程はないわ!! あなたたち! 田村の言葉は忘れなさい! そしてここで待ちなさい! 田村! ちょっと来なさい!」



 立ち止まる職員。職員にとって神の存在が、叱咤され、たじろぐ姿。田村にとっても勢いを弱めたくない士気。田村にとって、今この瞬間は、自分を高みに上げる分岐点に感じられた。



---*---

 今から向かう先は、自分が中心となり、別の自分がいる証拠を用意できた生き証人として注目を浴びる本部の重要会議。呼ばれていない場違いより、話し出せば誰もが興味を引く事実。支所に配属できない大きな存在。チーフや所長を通り越して、本部へ配属される可能性。この瞬間に、田村の野望を防げる理由は存在しなかった。

---*---



 田村は激しく眉間にシワを寄せ、声高らかに発する。



「皆!! 現れたぞ!! 我々の心を操り! 人類の未来を妨害する! 世界の元凶のひとりが!! 拘束しろ!!」



「おお!!」



「捕まえるんだ!!」



「正体を暴け!!」



 異常な空気。目つきが変わる職員。田村を含め、目覚めた職員三人の咆哮ほうこう。職員に導かれた道しるべ。自分たちが正義と感じた者達に役職は意味をなさなくなった。

 桜を取り囲む神のしもべ。即座に拳銃を構える桜。無力な武器にあざ笑う神は、指を額に当てる。



「おい! 田村! どうしたいんだ! 死んだら、ただの無だぞ!」



「さっき、言いましたよね……上で。お前の言ってる事は正しいと! 話を聴くと! 今がその時です。折角だから全員を撃って下さい。目覚める者が増える事でしょう」



---*---

 デジャヴュを認識できる田村。屋上で、デジャヴュ前、桜と携帯電話で会話した内容。田村にとっては確実にあった出来事。何も出来事がない者ならば、その言葉に同調は出来ない。

 それは田村にとって、ひとつの探りでもあった。この状況で、どう反応するか。この緊張感で、どれだけ違和感のない返事ができるか。

 撃たれる覚悟がある者たち。撃たれてしまいたい者たち。死を恐れない境地にまで上り詰めたと考える集団心理。

 田村に盾つく者。田村にとって必要だと思う行動。田村が見下して良い人間は、自分たちより下の存在に感じていた。

 そして桜にとって、それは何もない出来事のはずだった。

---*---



「なんの事だ!! 屋上では何も話してない!」



「私がいつ屋上だと言いました!? どうやらあなたは目覚めていて、何か知っているようだ。次の目覚め方のご教授いただきましょうか!! チーーーフ!!!!」



――クッ!!



 言葉を失う桜。緊張感に囲まれた返事には、小さな機転を働かす事が出来なかった。そして田村の言う、目覚めの世界を共有されていると判断された。



「チーフ?。僕から撃って下さい?」



「チーフ。俺からお願いしますよ?」



「チぃぃフ?。あなたは同じ人間ですか??」



「尻尾あるんじゃないですか?? 服を脱いでくれなきゃわかりませんよ?」



「き、貴様ら!!」



---*---

 重なる職員の壁には隙間がない。すでに自分の意思を持たなくなった神に従う人間は、尊敬より、礼儀より、常識より、獣である自分を、神から認めてほしかった。神に賞賛されたかった。それは善と悪の区別が存在しない、自分で作り上げた脳内麻薬。品格を感じない、はやし立てる職員の言葉は、桜にとって選択の余地はなくなっていた。

---*---



 職員の後ろで不敵な笑みを浮かべる田村。

 その田村の表情を見ながら桜は、銃口を自分の頭に付ける。



「撃たせるな! チーフを止めろ!」



 田村の声と同時に、20本以上の腕が桜に向かって伸びる。足に、腕に、腰に、胸に、肩に、顔に。職員の重なる手に田村の表情が見えなくなる前に零す言葉。



「田村……また近いうちに会うだろう」



---*---

 研修室に響く銃声と同時に、捕まれる桜の体。桜の言葉が耳に残る田村と数名の職員は苦い顔をする。自害する意味。死なない世界。零した言葉。その全ては、この世界を理解している証拠。どれくらい、この世界を理解しているのか。どれくらい、自分たちはその目で眺められていたのか。

 躊躇のなかった桜の行動に、危険を冒して自分たちの前に現れたのではないかと。田村に対して何を語るつもりだったのかと。この瞬間、田村の差し迫った目的は、本部より、桜へと向いた。

---*---



「くそ! 逃げられた!!」



 言葉を吐く田村の視界には、職員達全員が綺麗に着席した状態。何事もなかったように一同、田村に向いている。突然の憤り、突然の険しい表情。その雰囲気に驚く職員。その中でも、数名の職員は田村の言葉を待つ眼差しに溢れている。



「お前ら、俺は見えた……この世界の敵が! 水谷桜!! チーフをさらえ!! その先に我々の進む道が見える!!!!」



「おおー!!」



「俺も見たぞ!!」



「覚えてる! やはり俺は目覚めたー!!」



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作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ