僕の青春と、姫君のお騒がせ!
「んー? 全く、何を見てたんだか。聞かせろよコノ野郎」
「あー、はいはい。今度ね、今度」
などとやっている間に、いつの間にか僕らは学校へと到着。
校門には、風紀局と書かれた腕章の人々が立っていた。
持ち物検査などではなく、どうやらこの学校は日常的に風紀委員がお出迎えをする慣習があるらしい。もちろん、遅刻の取り締まりや持ち物検査への恐怖心を煽る目的もなくはないだろう。しかし、人が通る度に聞こえてくる挨拶は、嫌みな部分のない清々しいものだ。
中でも、一回り小さな身体の彼女はひときわ快活である。
「おはようございます、みなさま!」
僕は、声の主を見て絶句した。なぜなら、童女のような無垢な瞳に、小さな身体。にもかかわらずその身からあふれるのは母性のオーラ。
しかし、それらはあくまでオマケだ。僕が言葉をなくした理由はそこじゃない。
丈の長いスカートを持つモノトーンのエプロンドレス、頭にちょこんと乗ったホワイトブリム、彼女の身長よりも長く大きな箒。いわゆるメイドさん姿である。
「……おい、あれ」
「言わないで。僕も何も言わない。言いたいことは解るから」
「ほほー、気が合いますな御仁!」
「君誰だよ」
「いや、失敬失敬。メイド先輩が可愛くて」
「そっちかー。その前に僕としては常識に照らし合わせて欲しかったかな」
「常識なんて捨てるものだぜ、青足くん。だってメイド先輩可愛いしね!」
またも、ニシシと笑ってみせる鹿島に、僕は肩をすくめるばかりである。
「おはようございます、みなさま! って、あれ? 君たち新入生かな」
「おはようございます、メイド先輩! あ、俺鹿島って言いますんでよろしくお願いします!」
「あはは、元気良いね! お姉さんも負けないかな!」
アクティブというかアグレッシブな鹿島に対抗するかのように、メイド先輩は平らな胸を張ってみせる。うーん、先輩には見えないなぁなどとおもいつつ、苦笑して
「おはようございます、先輩。腕章を見るに先輩も風紀局の方なんですよね」
「そうだよー。風紀局は毎朝こうして挨拶しているんだけど、制服だとピッシリしすぎちゃうからね。メイド服と執事服で少し和やかにしてる感じかな!」
おー、と言いながら鹿島は周りを見渡し、メイド服姿の女生徒を見つける度に眼福眼福とか言っている。うん、なるべく関わらないようにしよう。
「よく考えられているんですね。いつ頃から、とか訊いてしまっても良いですか?」
「ふふふ、聞いて驚け新入生! 実は今日からだったり!」
「……それ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。局長自ら学校側と交渉した結果だし。ふふふー、君たちも私を敬いたまえー」
凄いのは局長であるのに、なぜか自慢げなメイド先輩。
「凄いですね、風紀局長さんは」
「ふふふ、もっと私を褒めると良いかな!」
そこでふと、疑問に気付く。我ながら鈍い。
「もしかして、先輩って……風紀局長さんなんですか?」
「あれ? もしかしてわからなかった? むー、昨日の入学式でも壇上で喋ったんだけどなー」
「すみません、さすがに覚えられなくて」
「ま、良いって事よ。何を隠そう私が風紀局のメイド長こと、風紀局長の榊束 彗(さかきたば すい)だよ! 鹿島くんと、えーと」
「青足です。青足天秤です。よろしくお願いします、榊束先輩」
「うん、よろしく、青足くん。んじゃ、そろそろ私は挨拶に戻ろうかな! まったねー」
言いつつ駆けていく榊束先輩。せめて前だけは見て欲しい。
「いやー、榊束先輩可愛いなー。青足もそう思うよな?」
「まぁ可愛いんじゃないかな。ごめんよ、僕いまいちそういうのわからなくて」
苦笑してみせると
「ふーん、枯れてるねぇ」
「うるさいなぁ」
作品名:僕の青春と、姫君のお騒がせ! 作家名:空言縁