小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の青春と、姫君のお騒がせ!

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

僕・出遭い・姫君(ボク・ミーツ・ガール)


 正直なところ、僕はここに似つかわしくない。そんなことを思った。
「何を呆けているんだい、君は。現実から目を背けることは良くないよ?」
 流麗な仕草で、僕を華麗に投げ飛ばした御麗人が、わけがわからない、といった様子を見せる。わけがわからず泣きたいのは僕の方である。全く勘弁して欲しい。
「おいおい、テメェ。何のつもりだ、あァ? そいつは俺の遊び相手だ。女は引っ込んでろ」
「それは失敬。しかし私を相手にしてその言葉遣い。少々改めねばならんな。駄犬にも駄犬なりの礼儀があることをその身に叩き込んでやろうか」
 目の前で行われる挑発と皮肉のやりとり。あるいは互いに警告か。なんにしても僕を巻き込まないで欲しかった。もちろん、過去形なのは既に巻き込まれてしまったからだ。
 しかし、片や金髪碧眼にブレザー姿の留学生のようでありながら妙に不遜な少女、片や黒い制服にくわえ煙草、くすんだ金髪は染めたものだろう。典型的な不良の出で立ちの青年である。
 客観的に見るに、同じ学校の制服を着ていなければ、僕がこの場にいるのはお門違いだろう。
「まずはテメェに上下関係って物を教えてやらなきゃならねェか」
「そうだな、貴様は何があろうと私より絶対的に下なのだから、身の程を知るべきだろう」
 もし堪忍袋の緒が切れる音が聞こえるのであれば、今この瞬間に繊維を引き千切るような音として聞いたことだろう。そう思わざるを得ない程、その怒りは苛烈だった。
「死にさらせェッ!!」
 彼の男が取り出したるは、黒鉄の銃身。火薬と鉛玉による殺傷兵器。無骨なまでの破壊の塊だ。
 本来であれば寒気すら覚える金属の冷たさは、荒々しくも美しい装飾文字によって高温に滾る炎の如く熱を帯びて見える。
 彼が引き金を引くと同時、装飾文字に炎が走る。その文字は見たこともなく、読めるわけでもないのに、意味だけはなぜかわかった。
 すなわち、"焔"と——。
 銃身が焔に煌めくのであれば、その口から吐き出されるは灼熱に他ならない。閃光を発し、熱量はただ指向性を持って身構える彼女を襲う。
 しかし、熱線の先に彼女の姿はなく、空気と地面を焼き焦がしたのみだ。
「どこを見ている。奢りが過ぎるぞ、駄犬」
 彼女はいつの間にか彼の前に現れ、相手の顔に向けて蹴りを放つ。舌打ち一つとともに男は身を翻す。鋭く繰り出された足は、しかし紙一重で当たらない。
 男は手の拳銃を動きのままに彼女へ向ける。彼女の足は既に地面に。だが、それは先ほどまで空にあった物のみだ。
 つまり、連続蹴り。蹴撃は正しく男のあごを捉え、確実に打ち抜く。
「ぐ、」
 男の体が揺らぐ。それは紛れもない純粋な隙。今の彼女には決して見せるべきでないものだ。
 立て続けの衝撃音。休む事なき連続音は全てが殴打に等しい。
「がぁ!?」
 一際大きな音と共に、男の体が宙を舞った。
「私の手に触れられるのだ。光栄に思え」
 しかし、彼女から離れていくはずの彼の身体は、彼女の手によって防がれ、その衝撃を唯一の逃げ場、回転運動へと変じる。彼女の腕が、肩が回り、彼の身は弧を描き彼女を越える。そして、彼女は無造作に腕を振り下ろした。追随するのは男の身体。向かう先は地面。
 鈍い音。
 声すら発する間もなく、彼は夢の世界へと旅立たされたようである。ぴくりとも動く気配がない。
「ふう。なぁ、天秤くん。飛び道具とは卑怯だと思わないか? 全く、少々本気にならねば私が危ないではないか。君はそう思わないかい?」
 金色のポニーテールを風になびかせ、彼女は笑ったのだった。
 僕こと青足天秤(あおたり てんびん)が、なぜこんなことになったのか。それを説明する為には少々時間を遡る必要がある。
 思うに今朝から、この変化は始まっていたのだろう。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 さんさんと輝く春の陽光を浴び、いつもよりは多少なりとも晴れやかな気分で僕は坂を登っていた。
 向かう先は、我らが三日月高校だ。
 昨日は入学式。今日から本格的に学校生活が始まる。
「おーはよっす。どしたの青足。妙に暗いね」
「ん? あぁ、鹿島か。昨日知り合ったばかりだから知らなかったと思うけど、これが僕の普通のテンションだよ。むしろこれでもテンション高い方。昨日が高すぎただけ」
 声をかけて来たのは鹿島 晴日(かしま はるひ)。色素がやや薄いのか焦げ茶の髪に茶色の瞳、尖った髪がトレードマークの男である。
 昨日知り合い、お互い遠方から入学ということで意気投合した。よく言えば人なつっこく好奇心が強い。悪く言えばはた迷惑などんちゃん屋、と言ったところだろうか。表情は豊かでよく笑う辺りは好感が持てる。この友人に入学式早々巡り会えたのは幸運だったと言えるだろう。
「ほほー。昨日の姿見てる限りはフツーかと思ったけど、実は結構ローギアな感じなわけだな。ふむふむ、メモメモっと」
「そういう君はいつもハイテンションだね。テンション下がるときとかってあるの?」
「あるに決まってんじゃん。俺だってフツーの青少年ですよ? まぁ回復力には自信があるけどな」
「つまり?」
「一瞬で回復するから基本ハイテンションだな!」
「ですよねー」
 苦笑で返す。ニッシッシ、と楽しげに笑い返されるが、そんなに良い笑顔されてもなぁ。
「で、今日は自己紹介があるわけですが、お前は何か用意してきたのかなー?」
「いや、僕はさして何というわけでもないし、これといった特徴もないからね。強いて言えば特徴がないやつだと覚えてもらおうかと」
「はぁ? どんな自己紹介だよそれは」
 笑うなよー。とちょっとこづいてやるも、ツボに入ったのか笑われっぱなしである。悔しいので意趣返しとして、
「なら、君はなにか準備してきたの?」
 と聞くと、
「もっちろん。ニシシ、聞きたいか?」
「いや、なんか先が予想できたから遠慮しておくわ」
「そんなこというなよー、きけよー」
 鬱陶しく絡んでくる鹿島をはたきつつ、ふと目をやった。
 それは完全に偶然だったが、あるいはこれは必然だったのやも知れない。
 そこには、一人の姫君がいた。いや、実際は同じ学校の生徒だ。制服を着ているのだから間違いない。
 しかし彼女は、"姫君"と形容するに相応しい容姿と品格を持ち合わせていたのだ。
 日の光を反射して金に輝く、一束の長髪。透き通るように美しく、白磁のように滑らかな肌。そして、意志の強さを思わせる碧の瞳。
 優雅に、しかし毅然とした歩みは確かで、どこか挑戦的とも思える微笑は自信の表れだろう。そこはかとなく不遜さを漂わせる彼女は、まさしく姫君の名で呼ぶべきだろう。
 散る桜の中を進んでいく彼女は、思わず僕が忘我してしまう程に綺麗だった。
 と、
「……ーい、帰ってこーい」
「うわぁ!」
 つい、大きな声が出た。
「どしたの、突然ボーとしたりして。なんか可愛い子でもいたか?」
 微妙に嫌な笑顔を向けてくる鹿島。僕がひとまず苦笑を返すと、彼は振り返って僕の見ていた方を確認する。つられても僕も彼女の姿を探すが、既に姿は見当たらない。どうやら先へ行ってしまったようだ。
 少々ほっとしたような、見れなくて残念なような。