「舞台裏の仲間たち」 47~48
しかし今日も日が暮れるとこの子はまた、スナックに正装をして出勤し
売春目的で来店するお客たちと、自由恋愛の駆け引きを繰り返します・・・・
奇岩の並ぶ景勝地で、青い海を見ながら戯れていることが、
とても現実とは思えず何故かまだ覚めない夢を見ているような、
そんな違和感にも、順平はとらわれてしまいました
野柳を後に、反時計回りに景色のよい北海岸を西へと向かいました。
どこまでも続く海岸線沿いを走っている時でさえ、貞園は少女の顔のまま、
順平の肩の持たれてうたた寝をしています。
ふと眼を開けた時に、また沈んでいる順平を見つけると
その耳を引っ張って、小さな声でささやきました。
「少し寝よう、おいでここ」
そういうと自分の身体をすこし斜めにずらして、
順平の頭を、自分の胸の中へ抱え込みました。
綺麗な海岸線を見ていても良いけれど、台北へ戻るまでは2時間以上もかかるから、少し寝ましょうねと、
もう一度貞園が耳元でささやきます。
結局、風光明媚な海岸線が長々と続くという
北西部の海岸線を碌に見ることも無く、貞園にもたれかかってそのまま、
台北の町まで眠りこけてしまいました。
市内に着いて間もなく『いい加減にしないと私の可愛い胸が潰れちゃう』と
耳元で甘くささやく貞園の声に起こされました。
窓ガラスに肘を付けてほほ笑んでいる貞園は、いつのまにか
真っ赤な口紅を着けています。
そういえば、まもなく日暮れです。
今日の出勤にそなえて、庭園は帰りの車内でそれとなく着替えて、
化粧も整えていたようです。
市内をすこし散策をした後、簡単な夕食を済ませ
お店の前まで二人を送ると、庭園は私のほっぺに軽くキスをして笑顔を見せて
お店の中に消えて行きました。
いまだになんだか、狐につままれているようでした。
背後にやってきた亀田社長が大きな声でわらいます。
「彼女たちに『売春』という罪悪感は存在しないんだよ。
長年にわたって公娼制度が根ついてきたこの国では、
こと性のモラルに関しては、実に寛大だ。
実のオヤジが、我が子を売春のホテルまで送り届けてくる世界だぜ。
最初は俺も驚いたが、そういうものかと最近は慣れてきた。
もっとも貞園たちは、現役の大学生で
男を選ぶのも、自由恋愛の結果によるそうだ。
誰とでも金で寝るわけじゃない・・・・
しかし、慣れたとはいえ、
この国には、訳のわからないことが実にたくさんある。
実は、ひとつ重大な問題が発生した。
その話を先に片づけてから、もう一度貞園達に会いに行こう。」
余程の重大事態のようでした。
ふと、眉を曇らせた亀田社長の表情は、いままでとはまったく異なる
別な顔を見せていました・・・・
■1980年代には日本人男性が海外買春ツアーを組んで押し寄せていた台湾が、
約10年ぶりに「売春合法化」に乗り出しました。
台湾の立法院(国会に相当)は売春について規定している
社会秩序保護法の改正案を可決し、即日中にこれを施行しました。
これにより、自治体が希望すれば「売春特区」(正式名称は「性工作専区」)
を設けることができるようになりました。
いわゆる赤線地帯の復活です。
もともと台湾では、日本統治下の公娼制度を受け継ぎ、
戦後も台北の「華西街」などの巨大赤線地帯が繁栄をし、全土では、
数千人にのぼる公娼が働いていたと言われています
「台湾では、性産業の存在に肯定的な声が多く、
娼婦に対する理解もある。
今回の法改正は馬英九政権の票集めパフォーマンスともとれますが、
いずれにせよ台湾を訪れる日本人観光客は
間違いなく増えるでしょう」
※週刊ポスト2011年12月23日号
作品名:「舞台裏の仲間たち」 47~48 作家名:落合順平