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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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 そう思って立ち上がり、船を漕いでいるティリーに近寄る。眠っている人間を一人にしておくのはまずいので、とりあえず起こしておこうとした、その時。
 妙な気配がした。
 冷たく纏わりつくこの気配。それが流れてきた方向に眼を向けると、夜闇の向こうに夜よりも暗い影が漂っているのが視えた。それも大量に。
 人に憑くような悪魔ではない。おそらく魔物がいるのだろう。ただし、かなり数が多くて、強力な奴が。
(しかもこの方角は・・・・・)
 リゼが歩いて行った方向じゃないか。もう気付いているだろうし、彼女が魔物にやられたりはしないのだろうけれど・・・・
(一人で戦いを挑んだりしていないだろうな・・・・)
 あまりに有り得そうな事態にアルベルトは嘆息した。とにかく探しに行くしかない。
「ティリー」
「・・・・・・・はい?」
「リゼを探しに行ってくる。魔物がいるみたいだから気を付けてくれ」
 それだけ言って、アルベルトは木立の中に足を踏み入れた。一歩進むごとに、気配は濃くなっていく。霞のような悪魔達が漂ってきて纏わりついてくる。
「神よ。我に聖なる加護を与えたまえ」
 短く祈りの言葉を唱えると、纏わりついていた悪魔達が離れていく。しばらくの間、アルベルトは気配を頼りに無心に歩き続け、ついに、気配の発生源のすぐ近くまでたどり着いた。
 果たして、リゼはそこにいた。
 だが、魔物に一人で戦いを挑んだりはしていなかった。樹の陰から魔物の様子を伺っているだけである。
「リゼ」
 声をかけると、彼女はちらっとこちらを見ただけですぐに前方へと視線を戻した。
「ちょうどいいわ。あれ、なんだと思う?」
 リゼの見つめる先、開けた窪地の中に、大きくて丸いものが鎮座している。冷たく纏わりつくような気配を吐き出すそいつは、巨大な肉の塊だった。何十匹かの獣が融合したのだろうか。素が何であったのか分からないものになっている。周囲の樹木まで巻き込んでいるらしく、ところどころから樹の幹のようなものが突き出していた。
「あれは・・・・」
 不気味な肉の塊の中に無数の蠢く影がある。
 大量の蟲の悪魔が。
「悪魔召喚で呼び出された悪魔が取り憑いているんだ」
「マリークレージュの、あの蟲の悪魔のこと?」
 どうやら様々な生物に取り憑いて魔物化させた上、融合して一つの塊になったようだ。とにかくよく分からないものになっている。
「なんですのあれ。気持ち悪いですわね」
「ティリー!? いつの間に・・・」
「貴方がわたくしをおいてどこかへ行くものですから、こっそり後をつけましたの。それより、あれが悪魔召喚の置き土産だっていうのは本当なんですの?」
「ああ。間違いない」
 召喚の魔法陣を破壊すれば蟲の悪魔も消える。はずなのだが、そうでないものもいたらしい。しかし、こんなところにまでやってきていたとは。
「それにしても魔物ってよく変な姿をしてますけど、あれでは動くに動けないんじゃありません?」
 魔物の様子を観察していたティリーは今度はそんな感想を漏らした。確かに、魔物には手も足もなく、ただの丸い肉の塊でしかない。時折、びくびくと蠕動し、脈打つように蠢くそれは、まるで何かが生まれ出でようとするかのようで―――
「・・・・・蛹だ」
 肉塊の中を見通したアルベルトは、そこにいるものに気付いてそう呟いた。
「あれは蛹なんだ。あの蟲の悪魔はああやって自分に合った身体を造ってるんじゃないか?」
「それなら今すぐ動く必要はないでしょうね」
「ええ!? やっぱり気持ち悪いですわ・・・・」
 リゼは至極冷静に、ティリーは非常に気持ち悪そうに言う。
「で、何が出てくるのかしら」
「奴らが一つに融合した強力な魔物。いや、むしろ悪魔に近いのかもしれない。どちらにせよ、このまま放置しておく訳にはいかないな」
「同感ね。さっさと片付けましょう」



 先陣を切って、リゼは魔物に近付いた。それに気付いた魔物は体を震わせ、触手のようなものを伸ばしてくる。しかし、リゼの放った氷槍がそれを貫いて凍りつかせた。その隙にアルベルトが魔物に接近し、斬りつけようとしたが、今度は別の触手に阻まれる。
「どいてくださいませ!」
 飛び出したのはティリーだ。彼女はこちらには聞き取れない声で何か呟くと、右手を突き出した。そこから炎が巻き起こり、魔物へと激突する。爆炎は魔物を捕え、真っ黒に焼き尽くす、はずが・・・
「あ、あら?」
 黒焦げになったのは表面だけのようだ。魔物はさして痛手を蒙った様子もなく動き続けている
「そんな。効きませんの!?」
 驚愕の声を上げるティリー。その後ろに魔物の触手が迫りくる。それに気付いたアルベルトが、
「ティリー、危ない!」
 ティリーを抱え、横に跳んだ。その後ろを一本の触手が通り過ぎて行く。避けなければ頭を串刺しにされていたところだった。
「あ、ありがとうございます。助かりましたわ」
「大したことじゃない。それよりも、あれぐらいじゃ効かないみたいだな」
「表面は頑丈みたいね。なら」
 リゼは触手をかいくぐって魔物に近付くと、そいつに向かって突きを繰り出した。放たれた剣閃は魔物を斬り裂き、柄の部分まで潜り込む。しかし魔物の動きが鈍る様子はない。最も、狙いは別にある。剣は導火線代わり。魔物の体内に直接魔術を叩き込むのだ。
『凍れ』
 魔物が叫び声のようなものを上げた。リゼは剣を抜き、後ろに下がろうとしたが、鞭のように伸びてきた触手を避けきれず弾き飛ばされる。しかし地面に叩きつけられる前に、ちょうど後ろにいたアルベルトに受け止められた。
「リゼ、大丈夫か!?」
「――っ、平気」
 少し痛いが大したことはない。リゼはアルベルトの手を振り払うと、魔物に打ち込んだ魔術を発動させた。
魔物が内側から凍り付いていく。それは瞬く間に魔物の全身を覆い、一個の巨大な氷像へと変え――
「・・・・駄目か」
 氷に閉ざされ魔物は一瞬動きを止めたものの、触手の一部は氷を突き破り、抜け出そうと蠢いていた。思った以上に生命力が強いようだ。なら。
「ティリー! あいつを潰して」
 リゼは次の一手を考えていたティリーにそう言った。突然の注文にティリーは戸惑う。
「え!? まさかあれを丸ごとですの!?」
「当然」
 きっぱりそう告げて、リゼは剣を構える。その横に、同じく剣を構えたアルベルトが並んだ。
「どうするつもりなんだ?」
「単発じゃ無理そうだから、再生している暇がないぐらい徹底的に攻撃する」
「確かにそれしかないな」
「無茶言いますわね。・・・・・いや、そうでもないか」
 そういってティリーは例の魔導書を取り出した。本を開き集中し始める。数瞬ののちに、重力の魔術が解き放たれた。過重力の網が魔物をギリギリと押し潰す。氷が砕け、欠片が魔物の身体に食い込む。魔術による破壊が終わり、過重力が消失したところへ、
『風よ。切り裂け!』
 氷の破片によって抉られた箇所へ、剣で斬りつけるのと同時に風の刃を叩き込む。魔物の表皮がざっくり切れて、大きな切り口ができる。もう一度斬りつけようとしてリゼは剣を振り上げたが、
「!」