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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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港のすぐ近くまで来たところで、よく知った声がアルベルトの名前を呼んだ。振り返ると、そこにいたのはアンジェラだった。
「どこへ行くんですか? そちらは港ですね。こんな朝から何の用で行くのです?」
「・・・そういう君は任務があったんじゃないのか。騎士達を連れてきたのも君か」
「アルヴィアの安寧を守ること。これがわたしの任務です。貿易の要であるメリエ・リドスで騒動が起こっているなら、それを治めるのも任務のうちです。
 アンジェラは厳しい表情を変えぬまま、そう言った。
「答えてください。この騒動の原因はその『魔女』ですか?」
「それは違う!」
 反射的にアルベルトは叫んだ。あの爆弾はリゼを狙ったものだったが、彼女が引き起こしたわけではない。そもそも麻薬の密売人を捕えに行ってこうなっただけなのだ。リゼが責められるいわれはない。
「騒動があったからって、どうしてその原因が彼女だと思うんだ? どうして決め付ける。確証なんてないのに」
「そ、それは、疑いがあるなら見過ごすわけにはいかないからです。『魔女』は」
「人に害為す者だからか? なら悪魔堕ちした悪魔祓い師(俺)も同じだ。俺のことも疑うべきじゃないか?」
 アンジェラは黙った。言うべきことを探しているように、うつむき目を閉じて。
「・・・でも、あなたはこの騒動の原因ではないでしょう?」
「そうだ」
 それだけ答えて、アルベルトは港の方へ歩きだした。アンジェラは何も言わない。そのまま黙ってその場を離れようと思ったが、ふと思い出して足を止めた。
「麻薬の密売のことなんだが、やっぱり入国審査官――ロドニー審査官が関わっている可能性がある」
「・・・え?」
「もう一度よく調べてみてくれ。君が調べる方が速いだろうから」
 それを聞いて、アンジェラは驚いたような顔をした。彼女はしばらく沈黙していたが、しばらくしてからうなずいた。
「分かりました。・・・では、もう一つだけ教えていただけますか。夜が明けた頃、街の中心から立ち上っていたあの光は、悪魔祓いの光ですか?」
「ああ」
「では、あれは『魔女』――いいえ、あなたの言う『救世主』の力なんですね?」
「・・・ああ」
 首肯すると、アンジェラはありがとうと言って、口を閉じた。どうやら、アルベルトを引き留める気はないらしい。
 そうだ。アンジェラに手伝ってもらえば、ミガーに逃げる必要はなくなるかもしれない。そう、無実を証明できれば。
 しかし・・・
(すまない。アンジェラ)
 視線を前方に戻して、アルベルトは走った。そして、出港する船に飛び乗った。



 金属の床に鈍い足音を響かせてラウルは逃げて行く。爆弾も魔法陣も品切れなのかただ走って行くのみである。曲がりくねった通路を過ぎ、長い直線に入った所で、ティリーは魔術を放った。
「逃がしませんわよ!」
 ラウルを中心に過重力の網が張り巡らされる。それにとらわれたラウルは、重力に耐え切れずがくりと膝をついた。
「手間かけさせないでくださいませ。めんどくさい」
 歩みを進めながらティリーは這いつくばるラウルを睥睨した。
「ああもう。メリッサといい貴方といい一体何なんですの!? 悪魔研究家としての矜持はどこへ行ったんですのよ?」
 悪魔研究家は悪魔を打ち倒す術を探す者。悪魔に魂を売り渡すことがあってはならない。たとえ真理を得るためであっても、悪魔(敵)に媚は売らない。
 悪魔を喚び出すことも悪魔憑きを増やすようなことをするのも、悪魔研究家としてやってはならないことだ。しかし、
「矜持? 矜持とはなんだ。残念ながらそんなものよりも大事なものがある」
「お金ですの? 馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しいか。おまえにとっては悪魔研究以外のことなどどうでもいいのだろうな・・・多くの悪魔研究家がそうだが」
「何を言いたいんですの?」
 返事の代わりにラウルが放ったのは無数の水の弾丸だった。しかしティリーが張った過重力の網にとらわれて、一つも届くことなく地に落ちる。ラウルはさらに炎の雨を降らせたが、それも全て重力の盾で防ぐ。単調で単純な魔術。爆弾や地雷魔術がなければ、ラウルは大した術師ではない。
「その程度じゃわたくしには効きませんわよ。ゴールトンの所に連れてきますから、大人しくして頂きたいですわね」
「どうもそうらしいな」
 いやにあっさりとラウルは言った。重力魔術の檻の中で抵抗するだけ無駄だと気付いたのか、それとも。
「物分かりがいいですわね。何か企んでます?」
「どうかな。少なくとも反撃の手段は思いつかん」
 ラウルの表情は読めない。そもそもリゼの悪魔祓いの術を見た時以外、大して表情が変わらないので一体何を考えているのか分からないのだが。
 遠くで数人の足音が聞こえた。おそらくゴールトンの部下だろう。こちらに向かってきているようだ。
「一つ聞いてよろしくて? あの大勢の悪魔憑きはなんだったんですの? 教会の司祭までいたみたいですけど、一体何のために一か所に閉じ込めていたんですの?」
 ゴールトンの部下が到着するまで聞けるだけ聞いておこうと這いつくばるラウルに問いかける。するとラウルは、
「人間は追い詰められたらなんだってするし、自分の信じたいことだけを信じるということさ」
 と謎かけのようなことを言った。全く面倒な言い訳はいらないというのに。喋る気はないということだろうか。
 まあ、司祭について一つ考えたのは、司祭に一服盛って脅し、麻薬の密売を強制させていたのではないかということだが。
 考えてもわからなかったので、後で考えることにした。とりあえず腹いせに過重力をかけると、ラウルは呻き声を上げて気絶する。振り返ればゴールトンの部下たちがやってくるところだった。



 ラウルを引き渡した後、ティリーは役場に戻り市長の執務室へとやって来た。そこでは一足先に戻ったゴールトンが待ち構えていた。
「密売人捕縛、感謝するぞ」
 にやっと笑って市長は言う。しかし、そんなことはもはやティリーにとってどうでもよかった。それよりも重要なことがあったのだ。
「それはいいですけど、それよりもあの二人は無事に船に乗れましたの?」
「ああ、無事に乗れたらしいな」
「それは良かった。でもおかげでわたくしは置いてけぼりをくらってしまいましたわ。次の船はいつ出せますの?」
「この騒動だ。当分船は出せねぇよ」
「それは困りましたわ。余り待たせると置いて行かれてしまいますわね・・・」
 むしろリゼのことだから待たずにさっさと置いて行ってしまうのではないか。ティリーはリゼについていく気満々であるが、リゼには別にティリーと一緒にいる理由がない。速く追いつかないと。
「それはそうと、あんたに手紙だよ。今朝来たばかりみたいでな。渡せて良かった」
「手紙?」
 ゴールトンが差し出した白い封筒を受け取る。差出人の名はない。封を破き中を見ると、便箋が一枚だけ入っていた。
「・・・速くミガーに行かなくてはいけませんわね」
「研究に役立ちそうなものでも教えて貰ったのか?」
「ええ、とっても面白そうなものを。という訳で、さっさと船を出して頂けません?」