落ちてきた将軍
家慶は、自分の身に起きた超常現象を静かに話しだした。
紀子は、シートベルトを引っ張りながら、身を後ろに乗り出して聞き耳を立てていたが、次第に、爛々と瞳が輝き出した。頬の桜は更に色を染め、桃の花のような色になっている。
家慶の横で小さくなっていた美穂も、落ち着きを取り戻したようで、その愛らしい瞳を輝かせながら、家慶の物語を聞いていた。咥えていた指を口から離し、小さな二つの掌で、これもまた、小さな胸を包み込むようにして、身を乗り出した。
綾乃は、見開いたままの目を真っ直ぐに向け、ハンドルを抱き込むようにしながら、ゆっくりと切っている。パトカーとすれ違う度に、更に眼を見開き、パトカーが行き過ぎると、大きく溜息をついた。興奮で、唇が乾くのだろう。時折、その桜色の唇を舐めていた。
家慶の物語が続く。綾乃は、暴走族の事が気になっていた。店が判っている。きっと、仕返しに来るだろう。それに、眉のない男が言った、博神会。暴走族のバックに、暴力団が付いているという事は聞いたことがある。
あの妖怪のような、眉なし男の言う事が本当なら、厄介なことになるのは必至だ。警察に届けるべきかもしれないと思いつつも・・・それこそ、信じてもらえないと思った。家慶が変人扱いされて、逮捕されるような事にでもなれば、取り返しのつかない事になる。綾乃は、暫くの間、店を閉めようと思った。ステーションワゴンが、綾乃の棲家に着いた。
「そういう・・・・事じゃ」
誰も口を開こうとしない。沈黙が、車内を包んだ。