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司令官は名古屋嬢 第5話 『なまりの中で』

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第1章 荒廃した大都市



   第5話 『なまりの中で』

【時間軸】・・・異次元暦42735年 2月9日 朝
【場所】・・・758号世界
       大阪府 阪神高速環状線
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 トヨタの『プリウス』1台と『ランドクルーザー』4台と『ダイナ』(トラック)1台の計6台からなる中京都軍の車列が、阪神高速環状線の高架道路を全速力で走っている。
 大阪市内のこの高架道路を走っているのは、この車列だけで、他に走っている車はいなかった……。ところどころに、車の残骸などが放置してあり、車列はときどきそれを避けて走行している……。まだ寒い時期の朝のため、車列からの排気ガスは白かった。

「大阪の日本橋ってところに行くのは、初めてなんだよね」

 先頭を走っているプリウスの助手席で、上社伏見(上社兄弟の弟のほう)が言う。カーラジオからは、違法ラジオ局の音楽が流れていた。
「そうなのか−。日本橋は、関西一の電機街なんだぞ!」
運転席の東山が少し楽しそうに言う……。彼らがこの大阪に来たのは、日本橋のある電器屋から、大事な物を受け取るためだった。
「『大阪暴動』が起きる前に行ってみたかったなあ」
上社が、黒煙があちこちで立ちのぼっている大都市を見て言った……。
「名古屋には大須があるからいいじゃないか」
「まあね」
上社と東山は、中京都軍の戦闘服(冬季用)を装備しており、腰のホルスターには、拳銃『グロック17』をしまっていた。


 ――少しして、上社たちの車列は、高速道路から一般道へ降りた。高架から降りた途端、車列は緊張感に満ちる……。流れている空気が、脊髄反射的にそうさせるようだ。
『周囲の確認を怠るな』
東山の真剣な声が、車列に響く。
 ランドクルーザーのルーフに取り付けられている無人機関銃が、せわしなく上下左右に銃口を向ける。上社たちは、必要な通信以外、無言で周囲を見回している。彼らの視線の先には、地元住民たちの姿があった。


 かつて、日本三大都市の一つとして栄えていた大阪は、『大阪暴動』という大きな暴動によって荒廃してしまっていた……。超高層ビルの多くは、崩壊するか黒焦げ状態で、街のあちこちに壊れた車やゴミが放置されていた……。そして、生きているか死んでいるのかもわからない人が、あちらこちらで寝ていた……。ときたま見かける民間車両は、車検を受けていないらしいボロボロの状態で走っている。シャッターだらけだが、露店があちこちで営業しており、ヤミ市としての賑わいを見せていた。


「このガキ!!!」

 そのとき、近くの屋台の前で、一人の男の子が屋台の店主に捕まっていた。ぞうきんのような服を着ているその子供は、両手にキャベツ焼きを素手で隠し持っていた……。盗まれたことに激怒した店主は、その子供を殴ったり蹴ったりしていた……。それでもその子供は、両手に持つキャベツ焼きを放そうとはしなかった。
 その周囲にいる人々は、ただ見ているだけで、誰もそれを止めようとはしなかった……。