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四神倶楽部物語

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「ミッキッコさん、大丈夫よ、この子、何もしないから。ちょっと撫でてやって」
 ミッキッコはこんな催促をされ、初め躊躇していたようですが、恐々(こわごわ)虎のそばまで歩み寄り、そっと撫でました。するとこれにも虎は、ニッと笑ったのですよね。その笑顔が可愛くって、虎の親戚筋の白虎の佳那瑠も、亀の悠太も、そして私も撫でてやりました。ホント、可愛い虎でした。

「さっ、もう時間ですから、行きましょう」
 魔鈴の呼びかけで、私たちは「バイバイ」と大虎に別れを告げ、車に乗り込みました。そして一路ホテルへと。
 森を抜け出し、草原の細い一本道をブルンブルンとエンジンを噴かせ、一応快調に走ってました。だけど謎が解けてません。
「ねえ、魔鈴、あの虎はなんであんなにおとなしいの?」と、私は疑問をぶつけてみました。
「お兄さん、もう忘れてしまってるのね。あっそうだ、あの子に会えば思い出すかも。お兄さんがちっちゃい頃、一番気に入ってた子よ。じゃあ、ちょっと御挨拶して行きましょうよ」

 魔鈴は慣れた手付きで、横道へとハンドルを切りました。そこは凸凹(でこぼこ)の地道、車が左右に大きく揺れます。
 それでもできる限り穴を避け、左右から覆う背丈以上のブッシュの中を潜(くぐ)りながらしばらく走りました。すると視界が突然開け、草原の高台にある大きなの木の袂(たもと)までやってきました。そこで魔鈴は車を停め、「お兄さん、ちょっと呼ぶからね」と言って、軽く飛び降り、ピーと指笛を吹きました。

 それから2、3分待ったでしょうか、ドカドカドカと地響きがし、現れたのです。体長は10メートル以上はあるでしょうか、生き物が、いや、化け物みたいなヤツが後方の二本足だけで走ってきたのです。
 それはさっきの虎より、比べものにならないほど恐い顔。そんなヤツに魔鈴は、「ティラ君、こっちよ。お兄ちゃんが帰ってきたんだよ」と。

 怪物はこれに応えるかのように、大きな牙を剥き出しにして私たちに顔を突きだしてきました。もうミッキッコも佳那瑠も、お漏らしするくらいの驚きで、後退りをしてます。一方悠太と私は恐怖で身体がカチンと固まってしまいました。
 なぜなら、そやつは古代恐竜で最もどう猛な──ティラノサウルス──だったからです。


作品名:四神倶楽部物語 作家名:鮎風 遊