四神倶楽部物語
私はそんなミッキッコからの裏情報を思い出しました。そして、そうなんだ、佳那瑠のヤツ、男とのケリを全部付けて、このオフィスでまじめに働くことにしたのかなあ、と心の高ぶりを抑えました。
しかれども、どこともなく不思議な気分です。ミッキッコは朱雀、佳那瑠は白虎、そして私は青龍。私たち三人は四神のDNAを引き継ぐ末裔だとか。そして、この四神の内の三神の子孫の私たちは今日からこの同じフロアーで働くことになったのです。
「これってやっぱり、縁は異なもの味(おつ)なものということなんだろうかなあ」
私はそんなことを思いながら、またパソ画面の中へ脳みそを放り込むようにして仕事に戻りました。
それからあっと言う間に時間は流れ、昼前のことでした。北森悠太(きたもりゆうた)が私のデスクの所にふらっとやって来たのです。
悠太は私より三つ年下で、若くて優秀なスタッフです。背はスラリと高く、いわゆる爽やか系のイケメン。そのせいかオフィス内での女性たちからの人気度は高いです。
しかし、残念ながら、いや、不幸なことですが、一つ難点がありまして……。それが何かと申しますと、こいつが話題にする内容はいつも胡散(うさん)臭いのです。
その時も、悠太のこんな言い草から始まりました。
「龍斗さん、絶対に知ってますよね。角の牛丼屋の先のオアシスビル、そこにあるでしょ、フランス高級レストランが」
私は仕事に追われてましたので、ああまたか、鬱陶(うっとう)しいなあと思いながら、「知ってるよ」とだけ返してやりました。すると悠太は、私の忙しさへの気遣いをすることもなく、耳元で囁くのです。
「龍斗さん、お腹空いてませんか? ランチのセットメニューが、新しくなったそうですよ」と。
私はこんな悠太の問い掛けが面倒臭くって、「うっせーなあ、何が言いたいんだよ」と一発噛ましてやりましたよ。そしてその後に、「おまえ、昼メシを奢(おご)って欲しいんだろ?」と睨み付けてやりました。