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超ミニ生足姫女

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 Kの横で姫女が青ざめすすり泣いている。始めて会ったときの挑発ミニ女とおなじ人物に思えないやつれようである。きっと誰にも相談できず苦しみ悩み後悔し、かくも憔悴したのだろう。そう思うと責任を感じるが、如何せん契約社員、不安定な身分で責任の取りようがない。
 小一時間は走っただろうか。
 車は木立に囲まれた別荘のようなお屋敷に入っていった。車回しの玄関で止まるとサッと黒スーツがドアを開けた。戦前の建物であろう、蔦の絡まるクラシックな洋館である。正面に金色の家紋があり、○○総業株式会社と書かれた看板が吊されている。
 こんな大邸宅に住んでいるのか?!Kはぶっ魂消てしまった。深刻な驚きは人を退行させるらしい。子供言葉になってしまった。
 「本当に、君んち?!」
 少年のようにキョロキョロしながら、Kは会議室のような部屋に通された。憔悴した姫女が横に座っても、驚いたKの子供言葉は直らなかった。
 「君んち、スゲーじゃん!スゲー家じゃん!」
 すぐに和服姿の上品な女性が茶を持って現れた。京人形風の顔立ちで姫女と似ている。深々と頭を下げた。
 「始めまして、母でございます。ふつつかな娘でこの度は申し訳ありません。ご迷惑をおかけします。父が来ますのでしばらくお待ち下さい。」
 愛想笑いをして立ち去ったが、お父さんがなかなか現れない。エイ!ヤ!鋭い気合いが聞こえる。誰かが武道をしているようだ。姫女が恐縮して呟いた。
 「スイマセン、お父さんが居合しているの。もうすぐ来ると思うけど、お父さんを怒らせないでね。・・昔、怖い人だったから。」
 そう言って頬を切る仕草をした。もしかしてヤクザ?強面の黒スーツといい、入り口の家紋といい、墨書された看板といい、納得出来る。小心なKはガチガチになった。気合いが止んで、カッカッと靴音が響き、バーンと扉が開いた。お父さん登場!である。
 イガグリ頭、太い眉、大きな目、どっしりした体躯、汗を垂らした大男が日本刀を持っている。ワアーッ、Kは圧倒された。上野公園の西郷さんそっくりある。西郷さん、いやお父さんが刀をドンと置いてテーブルについた。黒スーツがお絞りを差しだし、何やらメモを置いた。それを見ながらお父さんが大声で詰問した。まるで尋問である。
 「君の名前は○○天、××株式会社。契約社員で正社員候補、間違いないね。」
 仁王さんのような迫力に圧倒されてハイと応えるしかない。
 「君はうちの娘を妊娠させた。」
 お父さんはぎょろ目で睨んだ。声が大きくなった。
 「しかも避妊もせず、抜き身で交わった!」
 閻魔さんもかくやと思う迫力である。蚊の鳴くような声で応えた。
 「も、申し訳ありません。」
 その瞬間、お父さんが刀を持って立ち上がった。シャンデリアが揺れる大声で怒鳴った。
 「馬鹿モン!男が抜き身でやる時は真剣勝負だ!分かとるのかっ!」
 「ハ、ハーッ!」
 思わずKはひれ伏した。シャ!刀を抜く音がした。
 「真剣勝負は命がけだ!貴様は分かとるか!顔を上げろ!顔を!」
 怖々顔を上げると白刃が目の前にある。
 「アワワーッ、ご、ご勘弁を~」
 腰が抜けたのだろうか、膝が震え立ち上がれない。お父さんの大音響が轟いた。
 「男の真剣は命がかかっとる!貴様の真剣で娘が孕んだ。娘に父(てて)無し子を産ますわけにはいかん!どうしてくれる。命がけで応えろ!」
 白刃が首に当てられた。ヒヤッ、非情な冷気が立ちのぼる。打ち首寸前である。拒否すれば殺されるだろう。全身がガタガタ震え、歯が鳴って言葉にならない。生唾を飲み込み、かろうじて応えた。
 「・・い、命・・い、命・・い、命・・命をかけて責任・・と、取ります。」
 「ヨロシイ、分かった。」
 お父さんの白刃がサッと消えた。アワワーッ、緊張の解けたKはバタンと伏せてしまった。お父さんはドスの効いた声で確かめた。
 「君と娘は結婚する。日取りは早いほうが良い。こちらが全て手配する。イイかね。」
 うつ伏すKに考える力がない。ハ、ハイと応えるだけである。
 そこへお母さんが嬉しそうに入ってきた。
 「嬉しいわ、結婚も赤ちゃんもイエス様の思し召しですもの。皆で大切に育てなくちゃ。ですから、貴方たちはこの家に住むことになります。よろしいこと・・」
 「ハイ、お母さん。」
 姫女の弾んだ声が聞こえた。Kは次男だからどうでもイイ、顔を上げる気力もなく黙って頷いた。お母さんが嬉しそうに続けた。
 「この広いおうち、夜になると淋しいのよ。孫が出来ると賑やかになるよね。前の方と違ってKさんは子供が一杯出来そう。楽しみだわ。ねえ、お父さん。」
 閻魔のようだったお父さんが優しい声で言った。
 「そうだな、娘も居合をやらせたから、孫にも居合をやらせよう。孫を一杯作って居合をやらせたらここは道場だな。ワッハハー」
 まるで西郷さんの高笑いである。姫女の強烈キックを思い出した。カモシカキックは居合仕込みなんだ。Kなど眼中になく姫女も続けた。
 「・・私、赤ちゃんが欲しかったの。前の彼はダメだったけど、今度はすぐ出来ちゃった!・・すっごく嬉しい。もっともっとつくりたい!」
 すっかり好々爺の父さんが相づち打った。
「そうだ、そうだ、頑張れよ!」
 お母さんも楽しそうに続けた。
 「そうね、一杯つくってね。お母さんも頑張るわ。」
 お父さんが突っ込んだ。
 「お前が頑張ってどうするんだ。まずK君が頑張らなくちゃ!そうだろう。ワッハハー」
 バ~ン!お父さんがKの背中を叩いた。飛び起きたKは叫んだ。
 「ハ、ハイ!頑張ります!頑張らせていただきます!」
 

 結婚式をあげ親と同居したKは会社を辞めて子作りに励んだ。
 その結果矢継ぎ早に子供が生まれ、お父さんの言った居合道場を実現した。大学時代の仲間は逆玉の輿に乗ったKをタネ天(種馬の意味)と揶揄したが、彼らの高嶺の花である結婚と子供、それに邸宅、何と!会社社長(お父さんの後継者)まで手に入れたのである。
 全ては神の思し召し・・チャラ天は今や敬虔なクリスチャンである。


 
 
作品名:超ミニ生足姫女 作家名:カンノ