桜
冬香は、悠斗の向かいの席で
いきなりクスクスと笑い出した
「なんだよ 気持ち悪いなぁ」
「思い出したのよ あの時の事」
「あの時って?」
「ロンドン
だってあの時、私はお見合いした後で
母からも祖父母からも強く結婚を勧められてて、結婚前の旅行だって
無理やり休みを取ってロンドンに居たんだもの
帰ってからがもう大変だったんだから」
「そうだな・・・・・・
確かに大変だった
俺は仕事だったから、滞在を延ばすのも一苦労だったし」
「そうそう
友達は、無理やり旅行に連れ出されたのに
それ以後はほったらかしで、暫く口をきいて貰えなかったわ」
「今となっては、子供が出来た時に話すネタってとこだけどな」
「そうね」
「そうだ、忘れるとこだった これ」
そう言って差し出された悠斗の手の中には
季節外れの桜の蕾をつけた細い枝に、結婚指輪がぶらさがっていた
_____________________完