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「私が何をしたって言うのよ」
声が震えてはいるが、それでも精一杯の虚勢を張っている
「何をした?判ってるのよ
楓のブログに書き込みを始めたのは、あんたでしょ
あとの二人は、もう始末したから
残るはあんただけなのよ」
そういえば・・・と
メールを送っても返事すら無く
電話も通じなくなっている事を思い出し
背筋が凍るような寒気を覚えた
「ブログに書き込むくらい、なんだって言うのよ
大した事無いじゃない」
「そう?顔が見えないインターネットの中だったら
何をしてもいいと言うの?
そんな事をする奴らは、ただの卑怯者よ
顔がお互いに見えないから、好き勝手な事を書き
顔がお互いに見えないから、面と向かって非難される事も無い
誰が書いたかなんて判らないと思ってるから
いかにも正論をほざいているかの様にふりかざすのよ
誰か一人がそんな事をすれば、それに乗っかって
また誰かが何かを書く
そんな卑怯者の集まりじゃない
その卑怯者達のせいで、楓はここから飛び込んだ
今はまだ川の水も少ないけど
当時は、それなりに水があったから、海まで流された
水で膨らんでしまった楓の顔
私ですら一瞬、楓だとは思わなかったわ
あんた達のせいよ」
復讐をしようと決めるまでに
大した時間は要しなかった
震え、おののき、失禁までしているその姿を
紅葉は、ほくそ笑むように見つめていた
「みじめなものね
あとの二人は、もっとみじめったらしかったけど
私はずっとアーチェリーをやってた
知ってるでしょ?
楓の事で諦める結果になったけど
全国大会にエントリーする筈だったのよ
だから絶対に的は外さない
あんたの眉間からね
だから、1%程度の確率に賭けて
自分から飛び込むか
私に殺されるか、どちらか選びなさい」
下を覗き込むと、川底が見える深さの川が流れている
もう選択肢はなかった
欄干に足をかけ、身体を宙に放った
叫び声とも
悲鳴ともつかない声が、周囲に響き渡った
紅葉は見下ろしながら、無表情な声で
「ごめんね楓
楓がこんな事を望まないのは判ってる
けど、私が許せなかったの
たった一人の家族を奪われた
その悔しさが、どうしようもなく大きくて・・・」