「舞台裏の仲間たち」 43~44
「その辺が泣きどころだよな。
今のところ、各メーカー同士での互換性が無いもの、
効率が悪いのが玉にきずだ。
全ての機会に共通に使えるのなら、プログラムも安いけど
あっちには使えるけど、こっちには使えないでは
帯に短し襷に長しだ。
うちのはマックだが、
そこそこには、お薦めのソフトだよ」
■マック。 (マッキントッシュ)
アップルコンピューターの別名のこと。
「うちは、自動機のツール1(わん)システムを検討していますが、
プログラム機械だけでも、約1千万円になるそうです。
機械本体が2千万で、都合3千万がかかります。
そのうえに、専属のプログラマーが必要で、
プログラム技術の習得のために、2週間の予定で今2人を派遣しています。
おたくの雄二君は、独学で習得中のようですが
やはりコンピューター付きの自動機は、
動き出すまでに、たいへんな金と労力と時間がかかりそうです。
膨大な資金がかかるうえに、習熟するまでの時間もかかる・・・・
最新の精密機械の導入は、ある意味、
金型工場にとっては、『もろ刃の剣』にもなりますね」
「もろ刃の剣か、 旨い事を言う。
これからの金型の世界では、
おそらくコンピューター付きの自動機が全盛になるだろうが、
過渡期といえる今の時期では、かなり危険性の高い過剰投資になる
可能性もある。
そうかといって機械の導入に後れをとれば、
装備不足と言うことで、メーカー側には不信感を持たれてしまう。
受注が減れば、工場が立ちいかなくなる。
痛し痒しだが、生き残るためのギリギリの
たしかに、辛い出費だよ・・・・」
亀田社長が、額から滴る汗をタオルで拭い続けています。
一口コーヒーを含んだ後、ふうっと重いため息をついたその頬には
ぎりぎりでも、なんとか踏みとどまろうとしている町工場の苦しさが
ありありと見えています。
ポケットを探った順平が煙草を取り出すと、自らに火を付けた後
そのうちの一本を、亀田社長にもすすめます。
「ありがとう」といいながら、ため息交じりに吐き出した煙が
ゆっくりと天井に向かって立ち上っていきます。
「たしかにこれは、ハイリスク・ハイリターンの
サバイバルゲームみたいなものだ。
同じ品物を生産するために、今までの4倍もの経費をかける。
確かにこれは正気の沙汰じゃない。
しかし、この機械はこれまでの熟練工と同じ精度の仕事をやってのける。
熟練工を育てるためには、確かに3年から5年もかかる
それを思えば安い買い物だとも思うが・・・
機械が人を減らして、人の仕事を押しのけて、
果たしてこれでこの業界に、バラ色の未来が来るんだろうか、
正直、俺にも咲が読めなくなってきた。
このあたりが、正念場かもしれないなぁ」
(44)へ、つづく
作品名:「舞台裏の仲間たち」 43~44 作家名:落合順平