DEAD TOWN
「Hey,Jake」
柊がいなくなってから3日が経ったある日、エリナと家の前で立ち話をしていたジェイクは、錆びてボロボロになった小型のトラックを運転していた黒人の男に声を掛けられた。
「What is it?」
「お前に用事があるんだ?ちょっと、付き合え」と、男は訛りの強い英語でジェイクに言った。
一緒に聞いていたエリナが怪訝な顔をする。
「何かあったの?」
エリナはジェイクのかわりに、男に質問をした。
「ちょっとな。それで、ジェイクに知恵をかりに来たんだ。でも、心配するな。たいしたことはないさ。俺たちは強い。それに、ボスにも約束した。ここを守り抜くと。だから、安心しな」
「どうして、ジェイクに?ジェイクは、ここを任されてるのよ」
「あぁ、そうなんだけどよ、ちょっとジェイクに見てもらいたいもんがあるのさ。それは、ジェイクじゃないと、分からないんだ」
そう言って、男は「come on!」と言って、ジェイクがトラックに乗るように親指でトラックの荷台を指した。
「エリー、僕、ちょっと行ってきますね?」
ジェイクは、エリナの返事を待たずにトラックの荷台に飛び乗った。
「bye, Elly」
ジェイクを乗せると、男はエリナに軽く手を上げて行ってしまった。
残されたエリナは、トラックが見えなくなるまでただ見つめていた。ふと、エリナの頭の片隅に、あの時と同じ光景が甦る。
「いいかい、エリー?君はいい娘だ。だから、私の言うことをしっかり聞くんだ。いいね?私は、これから皆の為、この街の為に戦いに行く。けれどね、もし私に何かあったとしても決して悲しんじゃいけない。私は、この戦いでもし死んでしまっても、それは本望でもあるのだから。そして、私がいなくなったとしても、この街も、君やジェイク、そしてこの街の仲間たちは心配しなくてもいい。この街を守ろうとする私の仲間が集まって、頑丈なバリケードと最新式の武器がある。それらがきっと、君たちを守るだろう。だから、エリー、君はここで待っていてほしい。私は、必ずここに戻ってくる。そして、永遠に君たちやこの街を守るから」
ボスはそう言って、エリナを優しく抱き締めておでこにキスをした。
「See you」
ボスはウインクをして、今ジェイクが乗ったみたいなボロボロのトラックの助手席に乗り込んだ。それが、ボスとの最後の会話で、最初で最後のキスだった。
「ジェイク、ちゃんと帰ってきて……」
エリナが、もう見えなくなってしまったトラックにそう呟いた。
戦うことは不幸だ。けれど、戦わなければ、ここにいる皆が不幸になる。どちらにせよ、生きるためには戦わなければいけないのだと、エリナは果てしなく続くこの戦いにめまいがした。ここがなくなれば、行き場をなくす者が溢れる。それは、エリナもジェイクも同じ。生きる場所がなくなる。それは、エリナにとっても死と同じことなのだ。