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ジュラ外伝

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プロローグ



 かつて争乱の絶えなかったこの地に、天より類い希なる能力を持つ一人の乙女が遣わされた。彼女はその特殊な能力を縦横無尽に発揮し、瞬く間に諍いを収め、かくしてこの地に平安の世が訪れたという。さらには、乙女の能力は止まるところを知らず、各地の争いごとは次々に姿を消し、やがて地上からは一切の争いが姿を消した。その後乙女は女王として即位し、ここにジュラード王朝が誕生したのである。以来、この星は代々ジュラード王朝によって治められる、おおむね平和な世界が続くこととなったのである。
 以上が子供でも知っているこの星の歴史である。そして今現在、第九十九代王の治めるこの世界は、依然として平安そのものなのであった。

 ケイ・コック地方。高きから低きへと流れる水が長年にわたって大地を削り取った痕跡である大渓谷が多数存在するこの地方は、自然の地形をドックとして利用し、古くから船の建造が盛んなことで有名だった。星々の世界を駆け巡る大航海時代が幕を閉じて早千年、往年の勢いは失ってしまったが、いまもいくつものドックで大小様々な船が造られている光景が繰り広げられている。中でも零号ドックで完成間近と見て取れる船はひときわ大きく、複雑かつ優雅な形状で異彩を放つ存在といえた。
 その上空三百エルテ。地上からは点にしか見えないそれは、近くに寄れば空中に止まっている人工的な物体であることが見て取れる。さらに近寄ってみれば、その機体は汎用的なものではなく、王家専用に造られたものであることがわかるはずだ。また、仮にそうとは気づかなくても、機体にマーキングされた王家の紋章に気づかないものはいないだろう。その人目を引く機上に、いま男女二人の人影があった。女をナーサ・ジュラードという。現ジュラード王の第一子にして長女で、御年十八歳、将来は第百代女王と目される、第一皇位継承者である。幼き頃より数々の能力に秀でた非凡の才能を持つ彼女は、年齢を重ねるにつれその能力は衰えるどころかますます増す一方であり、いまや初代女王の再来とも呼ばれるほどの能力者になっている。実際にはるか昔の人物と較べるすべはないものの、ナーサの能力はいまやほかに並ぶもののないものとなっており、名実ともにその呼ばれ方に恥じないものだといえた。最近では光の皇女とも呼ばれるようになっており、臣民の期待を一身に背負っている人物である。
 そのナーサの横で機体を操っている男性は、名をラ・マイル・オルドヴィスと呼ぶ。いまのところ最後の争いごととされているカコーノ紛争で数々の勲を打ち立て、一躍貴族の重鎮に躍り出たオルドヴィス家の長男にして家督を継ぐもの、しかして今現在は仮ではあるが、ナーサの婚約者という立場でもある人物である。歳は二十歳で兄弟はおらず、従ってこのままではオルドヴィス家は断絶してしまうのだが、いずれ正式にナーサとの婚約が決まった折には、養子を迎えるだろうというのがもっぱらの噂である。さて、このマイル、何しろ格式や伝統を重んじるこの社会にあって、新参者として疎んじるものがいることも事実である。とはいえ、将来は王家の一員となることが目されていることもあり、表だって彼のことを批判する向きはない。また、それを知ってか知らずかマイル本人の職務に対する姿勢は非常に真面目であり、かつ宮廷内での作法も心得たもので、マイル自身に対する人々の評価は総じて高いものとなっている。
 さて、そんな機上の二人であるが、実のところこれまで二人が恋仲であるという話はいっこうに伝わってこない。婚約云々については両家の間で決められたことであるが故、まだ互いに実感がわかないでいるのではないかという意見が大勢を占めているのが現状だが、それでも両者の付き人たちを筆頭に、身近なところではやきもきしているものたちも数多くいるのが事実である。彼らの唯一の慰めはといえば、このように二人で過ごす時間が比較的多いことで、やがて、二人の間に愛情が芽生えることを期待している向きは多い。そんな事情を知ってか知らずか、マイペースな付き合いを続けている二人であった。

 ナーサとマイルの乗機から空を駆け上ること五百エルテ。薄く飛行機雲を従えながら飛行する、一機の機体があった。一見、汎用の機体に見えるそれは、細かく見ていくと巧妙に隠されてはいるものの、あちこちに手の入ったカスタム機であることがわかる。しかし、何より不可解なのは、お忍びとはいえ王家のものがいる空域に、このような所属不明の機体が堂々と入り込んでいることであった。通常、王家に属するものが外出する際は、理由の如何を問わずに三エテの範囲内には、誰も近づけないように警護するのが常識だ。その体制は鉄壁で、常識的には不届きものが警備網を突破することなど考えられない。
 はたして、かの機体に搭乗しているのはナーサの側近にして一番の親友である女性であった。その名をリーガ・シロウ・マイセンといい、ナーサとは従姉の間柄に当たる。ナーサより三つ年上と割合歳が近い上に、幼少期よりナーサと一緒に育てられてきたこともあって、いまでは側近という仲を超えて何でも話し合える、唯一無二の存在となっていた。立場上、公式の場に姿を見せることは滅多にないものの、陰では常に控えており、何かあれば即座に対応できるように準備をしていることは、王室に関わるものであれば誰もが知っていることであった。さて、そんなシロウがナーサとマイルの頭上で何をしているのかといえば、別段興味本位の覗きなどでは決してなく、二人が、というよりナーサに何かあったときに即座に駆けつけられるようにしているからなのであった。もっともこれは、務めではなくシロウが自主的に行っていることで、ナーサにしてみればマイルと出かけるときは常にシロウに休暇を与えていたので、この事実を知ったらさぞかし驚いたことだろう。とはいえ、シロウにしてみれば常にナーサのそばに控えているのは「至極当然なこと」であり、仮に事実を知ったナーサがきちんと休暇を取るように諭したとしても、決して従うことはなかっただろう。そのくらい、シロウにとってナーサとは、主従を超えた大切な存在なのであった。

 王都ジュラ。小高い丘陵を覆うようにそびえ立つ宮殿を取り囲むように、環状に発展した都市である。当初は市民の居住地を防壁が囲っていたが、街の人口が膨れあがるにつれ壁の外にも人が住むようになり、やがて新たにそこを囲む防壁が造られる……そんな歴史を繰り返した結果、同心円状に整然と居住地と防壁が連なる様が印象的だ。とはいえ、防壁を必要としない平和な時代が訪れてからも人口は増え続けたため、いまでは最後の壁の外にも居住地が広がり、都市全体としてはやや雑然とした格好となっている。現在の人口はおよそ一〇〇万。政策上、これ以上王都の人口を増やさないようにしているため、この数はほぼ一〇〇〇年近くにわたって大きな変化はなく維持され続けている。
作品名:ジュラ外伝 作家名:かみやま