「舞台裏の仲間たち」 39~40
「それにしても順平くんは、
随分と早い退院ぶりですね、予定では今月末までで、
あと一週間は、病院のはずでしたが。」
石川さんが、いぶかりながら尋ねます。
返事をしようとした順平を差し置いて、レイコが先に応えてしまいます。
「順平ったら、今度は黒光が生まれたという仙台へ行きたいそうです。
会社の方には、一か月の診断書が出ていますので、
早めに退院が出来れば、それだけ余裕がつくれます。
勝手に退院をして、あなた一人で行けばと言ったのですが、
どうしても私と二人で行きたいそうです。
前回の連休の時だって、職場の同僚たちにたいへんな迷惑をかけて
やっと取れた連休なのに、
こいつったら、それに味をしめて
またなんとか休みをとれなんて、私に強要するんです。
ほんとに、勝手なんだから順平は」
「それでも、もう、
レイコさんは、お休みはとっちゃいました。
ついでに私も、病院の有給がとれたので
またまた、お邪魔虫となって、
順平くんとレイコさんに着いて行きます」
茜がクスリと笑ってから、此処に至るまでの順平の破天荒な行動ぶりを
みんなに披露しはじめます。
「順平君がどうやって
主治医を口説き落としたか知りたくありませんか?
椎間板ヘルニアなどの腰痛患者の入院は
一か月間前後の加療入院が一般的です。
通常の生活様式に戻るには、
おおむね、リハビリの期間も含めてそのくらい時間がかかります。
退院を急いだ順平君は
腹筋の運動が20回も出来るようになれば、
その時点で退院しても、一般の社会生活は大丈夫でしょう、
それができるようになったら、予定より早めでも
退院してもいいですかと、
先生に、誰が考えても無茶とも思える
提案をしたそうです。」
「腹筋運動を、20回ですか・・・・
事務職の僕は今の状態でさえ、20回は厳しいなぁ、
へぇ、面白い提案をしましたね、順平君」
石川さんが、自分の右腕の力瘤を見ながらつぶやいています。
確かに長身でありながら細身という、おせじにも筋肉質とはいえない石川さんなら
たしかに、それも有りそうなことです。
(41)へ、つづく
作品名:「舞台裏の仲間たち」 39~40 作家名:落合順平