「舞台裏の仲間たち」 39~40
「いやだぁ~あなたたち。
いつからそんなところに居たのよ、
来たのなら、声をかけてくれればいいのに・・・・」
「余りにもいい雰囲気で、時絵さんがなにかしてくれそうだと、
さっきから此処で固唾をのんで3人で見守っていました。
やはり、名女優はなにを演じても、絵になります。
今日もたったいま、つうが舞い降りてきたのかと思いました」
「あら順平君。
ずいぶんとお口のほうが、お上手ですね。
じゃあ期待にお応えして、つうがもうひと踊りしましょうか?
この日だまりの舞台はなんとも気持ちがいいわ。
いらっしゃい、茜ちゃん。
ほら、此処に立って見て・・・・
あそこの天窓から差し込む光は、100年前と同じなのよ。
凄いと思わない、
私たちはここで、100年前と同じスポットライトを浴びているの。
天窓から差し込む、100年前と同じ太陽の光。
ここは、100年分の浪漫が漂う舞台だわ。」
「なるほど、そういう手もあるか・・・・
ここは稽古場どころか、
やりようによっては、俺たち劇団の小舞台にもなると言うわけだ。
なるほどね、
名優は、自分の居場所を探すのが早い。
うん、舞台として充分に使えるかもしれないな」
座長も目を細めて、さんさんと降り注ぐ北の天窓を見上げています。
時絵が、呆気にとられたままとまどっている茜の肩を抱いて引き寄せます。
「茜ちゃん、このスポットライトは、
今度は全部あなただけのものになるのよ。
この光の下で、黒光が100年ぶりに甦る。
考えただけでも、ぞくぞくしちゃう・・・・ねぇ茜ちゃん、
私のつうを上げるから、順平くんが書きあげてくれる
黒光の役を、私に譲って頂戴。
駄目?駄目かぁ・・・・そうだわよねぇ、
残念だなぁ、こんな素敵な舞台なのに。
ねぇ座長、夜になったら月明かりの下で「夕鶴」を上演しましょうよ。
絶対に、いままでで一番神秘的なつうが舞い降りてくると思う。
ここはきっと、最高の舞台になる」
うっとりとしたままの時絵が、
再び目を閉じると、ゆったりとした所作で日だまりの中を歩き始めます。
その仕草と雰囲気はまるでいつもの舞台で見せる、つう、
そのものの姿です。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 39~40 作家名:落合順平