「舞台裏の仲間たち」 39~40
場所は公民館にもほど近く、外観に大谷石が用いられていて、
がっしりとした造りに3連ののこぎり形状の屋根が乗せられた、80坪ほどの
空間がひろがる工場跡です。
一時期、自動車の修理工場として活用されましたが、裏通りと言うこともあり
数年前から空き家状態になっていたっものです。
「80坪って言っても、
何もない空間だけだと、随分と広く見えますね・・・・
これなら、広さ的にも充分だし、
なによりも家賃が無料と言うのが魅力です。」
「なんで無料なんですか?
これだけの建物が・・・・」
「市役所の、のこぎり屋根再生プロジェクト計画が、
不況のあおりを受けて、3年間ほど、やむをえずの凍結になりました。
この下町一帯には、10を越えるのこぎり工場が残っていますが、
景観保存の地区として指定するまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
まぁ3年間と言う期限付きですが、
これだけの空間を遊ばせておくのはもったいないと思います。」
「石川さん。
それは別の意味では、老朽化した建物を3年間は劇団が責任を持って
維持管理に努めてください、というふうにも聞こえましたが・・・・」
座長の突っ込みに、石川さんが苦笑をしています。
一緒に見学にやって来た時絵が、興味深そうに北側に造られている
天窓の様子を見上げています。
初夏が真近に迫った午後の日差しは、北側に造られている天窓からでも
充分過ぎるほどの明るさで、屋根伝いに工場の隅々を照らし出します。
明るい光が何もない工場の土間を、舞台のように浮かびあがらせています。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 39~40 作家名:落合順平