フェル・アルム刻記
「……俺も同じ感じを覚えたよ。俺はライカが野原で倒れているのを見て近づいてみた。ただ倒れているんじゃない、って分かったんだ。ライカの周りは何も無くて……そう、空《クウ》が覆っていた。そして俺がライカの側に辿り着いた途端に、景色ががらっと変わって……俺はライカとともに奈落の底へ向かって落ちていった。あの時は何がなんだか分かんなかったよ。俺がライカの腕をつかんだ瞬間に俺の体は光に包まれて、気を失って……気付いたら俺達はクロンの宿りのそばにいたんだよな」
ライカの話を聞いていたルードは言った。
「レテスの谷でわたしが見た野原の幻像……あれはきっと、スティン高原の野原だったのね。そしてそこにルードがいた、というわけね。あの瞬間、フェル・アルムとアリューザ・ガルド、お互いの世界が繋がったんだわ。そのあとわたしは幻像の野原でなく、現実の崖から落ちていってしまった。ルードもその一瞬だけ、わたしの世界に来てしまったのよ。でもそれからなぜかわたしがこっちに来ちゃって、今に至ってるんだけどね……」
ライカが一言一句確かめるように言う。
「なるほどねえ……」とハーン。
「どうして二つの世界が繋がったのかは分からないけれど、人間には想像も付かないほどの大きな“力”が働いたんだろうね。ルードは覚醒し、ライカは異世界に連れてこられた。君達が転移させられたのはクロンの宿りの付近で……そこには偶然にも前日戻ってきた僕がいた。既に覚醒を経験した僕が、ね……」
「大きな力かあ……」
ルードは後ろ手で頭を抱え込むとつぶやいた。
「それって、俺達三人の“運命”ってやつなのかなあ?」
「そう。運命と言ってもいいだろうね。今の僕達に吹いている一陣の突風が、このまま何事も無く過ぎ行くものなのか、もっと大きな、嵐を呼ぶものなのか。……僕は後者のような気がするけれど」ハーンが言う。
「ふん……」ルードが鼻を鳴らした。
「まあ、あまり深く考えないで、突き進んでやるさ、俺は!」
そう言ってこぶしをぎゅっと握り締めた。
「へえ、ずいぶんと強気ねえ」ライカが言った。
「ああ! なんで俺がこんな事件に巻き込まれなきゃいけないんだ、なんてふうにくよくよと運命をうらむのはやめたよ。そしたらさ、頭ん中が妙にすっきりしたんだよ。だから、こうなったら俺の運命とやらの行き着く先を見てやるのさ!」
それを聞いて、ハーンが笑みを浮かべた。
「ふふふ、ルードも強くなったもんだねえ、うん、これからはいちいち悩んでいられないかもしれないからね。〈帳〉だって突拍子もないことを言うかもしれないし」
(強くなった、か。でも、運命を見きわめるための、そしてライカを守るための強さが、俺にはないんだよ……)
ルードは心の中でそっとつぶやいた。
しばらくして彼らは床に就いた。ルードもすぐに寝ついた。
今や三人は“運命”の渦に入り込んだのだ。