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フェル・アルム刻記

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 ルードが狼狽《ろうばい》しながら言う。
「この言葉――アズニール語は、わたしの世界では最も広く使われているのよ」
「アズニール……?」
 ライカの説明を反芻《はんすう》するルード。先ほどから“エシアルル”とか“ユードフェンリル”など、何やら知らない事柄が出てくる。ライカの世界ではごく当たり前に使われているのだろうが、ルードにはつかめるものではない。
 ハーンは腕を組み、唸りながら考えていたようだったが、不意に顔を上げた。
「ルードがアズニール語をしゃべれるようになった今回の件。鍵になっているのは多分、剣だよ」
「剣? ……それって、ハーンの持ってた、あの……」
 とのルードの言葉に、ハーンはうなずいた。
「そうだよ! それについても訊きたかったんだ。化け物を倒そうとあの剣を握った時、物凄い“力”が身体の中に入ってきて、ひきちぎられるかと思ったんだ」
 身振りを交え、ルードが言う。
「そう。あの剣はずっと前に“果ての大地”で見つけたものでね……たしかに尋常ならざる剣だよ。人間では創りようのない凄まじい“力”が込められている。だけど、その反動も恐ろしいものなんだ。人の魂を消し去ってしまいかねないほどにね。でもルードにとっては、剣の与えた衝撃のおかげで、封印のようなものがさらに解けたんだろうね」
 ハーンが答えた。
「フェル・アルム人が失っていた言葉を、俺達は取り戻した、っていうこと?」
「でもなあ。あの剣を手にして大丈夫だったなんて、一体どういうことなんだろうか?」訝るハーン。
「うん? 何が?」ルードが訊き返す。
「さっき言ったように、普通の人間じゃあ耐えられないよ、あの反動には。下手をすれば衝撃で死んでしまうかもしれないからね。だからあの時――化け物を前にして君が剣を握った時、僕は警告したんだけども……」
「じゃあハーンは、あの剣を持っていて平気だったのか?」
 と、ルード。
 ハーンは一瞬言葉に詰まり、返答に躊躇したようだった。
「ふっふっふ。きっと、僕とは相性が悪いんだろうねえ。なんならルード君にあげようか?」
 ハーンは冗談めいて言葉を返した。それを聞いてルードはかぶりを振る。身体が八つ裂きになる体験はもうこりごりだ。
「そうかあ、あの化け物を一刀両断にするくらいだから、よっぽど僕より使いこなせるんじゃないかなあ、なんて思うんだけど……」
 冗談交じりなのだろう、ハーンはさも残念がってみせた。
 ライカはハーンのほうへ向き直る。
「でもハーン、あなたは前からアズニールをしゃべれたんでしょ? なら、どうしてわたしと話してくれなかったのよ?」
 少しすねたようにライカが言った。
「いや……ごめん。でもライカだって僕に会ってからは今まで一言もしゃべってないでしょ?」
「そ、それはそうだけど……」
「まあとにかく」ルードが二人に割って入った。
「お互い不安を抱いていたんだから、しようの無いことじゃないのか? 俺もライカのことを不安に思っていたし、ライカもそうだと思う。でもさ、今はこうやって話し合い、お互い分かるようになったんだ。それでいいじゃないか。それよりさ……」
 と、いったん言葉を切った。
「それよりハーンはなんでこの言葉を――アズニールだっけ? ――しゃべれるんだ?」
「僕も覚醒した身だからさ。奥深い封印が解けたっていうこと。まあ僕の場合は、今回のルード君とはまた違った状況だったんだけどね」
「ふうん……」ルードは唸る。
「それで、ルード、ライカ」
 滅多に聞けない、力強い真摯なハーンの声に二人は顔を彼のほうに向けた。
「知りたいかい? 一連の出来事の真実を……」
「もちろん!」
 ルードとライカは異口同音に言う。強い意志を込めて。
 ハーンはそんな二人の心を読むかのような目でじっと見た。
「――じゃあ、行こうか! 遥けき野の賢者のところへ」
「それは、誰?」とライカが聞き返した。
「ああ、ライカには話してなかったよね。このスティン高原の遙か西には“遥けき野”と呼ばれる荒野があるんだ。人が住むような場所じゃないんだけども、そこに賢者とも呼べる人がたったひとりで住んでる。彼にことの顛末《てんまつ》を話せば真実のいくらかは――いや、全て明らかになるかもしれないな。そして僕達がその後どうすべきなのか。彼なら分かると思う」
「しかしさあハーン、昨晩も言ったけれども、あのへんぴな荒野にそんな大人物がいるなんて知らなかったぜ? あなたはなんで知ってるんだい?」
 ハーンは少し考えるようなそぶりをして答えた。
「……ずうっと昔、大怪我をして死にそうだった僕を助けてくれたのがその人だったんだ。僕が……自分の“力”を知りえたのはその頃で、そのことについても色々教えてくれたんだ。……まあ、いずれにしてもややこしい話はそこに着いてからにしない? 今日も色々あり過ぎたし、ね!」
 彼はいつもの口調で締めくくったが、そこにはルード達の問いかけを拒絶する雰囲気があった。
「そうね、わたしも疲れたし、あなた達はそれ以上でしょ? もう、夜だし……」
 ライカは窓のほうへ歩いていく。涼しくなった高原の風を受け、彼女の銀色の髪がなびく。ライカは窓の手すりに両手をついた。
「夜、か……。知らない場所といっても、こういう自然や人の生活っていうのは、どこでも変わんないものなのね……」
 その言葉は淋しげだった。そうでなくともライカの背中がそう語っていた。
 それを聞いたルードは彼女を温かく迎えいれ、そして彼女のためにも真相を明らかにせねば、とあらためて決意するのだった。そしていずれ彼女をもとの世界に戻す手立てを見つけねばならないだろう。
「そうだ、ハーン」と、ルード。
「その賢者は何ていう名前なんだい?」
「名前、ねえ……」ハーンは一瞬天井を見やる。
「その人は名前を呼ばれるのを嫌がっていて……そう、もっぱら〈帳《とばり》〉と名乗っていたよ」
 帳――カーテン。そして、空間を隔てるもの――。その人物がそう名乗るのに、どんな意味があるのだろうか?
「僕は確信している。真実は〈帳〉のもとにある、とね」





作品名:フェル・アルム刻記 作家名:大気杜弥