フェル・アルム刻記
四.
同じ頃。
その男は、ちろちろと儚げに点るろうそくの火以外明かりのない、漆黒に覆われた部屋の中で、身じろぎ一つせずに長いこと立ち尽くしていた。
聞こえるのは、その者の発する静かな息遣いのみ。男の両の眼はしっかりと開かれていたが、それは己が周りの暗黒を見据えているのではない。遠いところにある別のものを見ている、もしくは意識を遥か遠くに飛ばし、思念に耽っている様子だった。
ややあって、彼は深く息をつき、ひとりごちた。
「何なのだ、今感じた異質な感覚は? ……干渉だというのか? だとすれば、由々しき問題だ。野放しにしてはおれぬな……」
男のいる空間に徐々に明るみがさしてくる。
「〈帳〉よ。あの時、お前が我に語った言葉が、まさか真実となろうとはな。うかつだった。だがな、世界の流れを変えるわけにはいかないのだ。いかな手を用いてもな――!!」