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フェル・アルム刻記

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「我《われ》が“力”を手に入れたあかつきには、フェル・アルムは完全なる一つの世界となるというのに――お前達はあくまで我に楯突こうというのか!」
 それは明らかに敵意の感じられる声だった。
「だが、全ては我の掌中に収まっている。お前達がどうあがこうと、所詮は無駄なこと……」
 真上から見下すかのような態度を変えないまま、デルネアは冷酷に言いはなった。
「――烈火に総攻撃の命令を下すぞ。ここに集った民を粛清するためにな!」
「粛清だと?! 避難民には何ら関係など無いのだぞ!」
 あまりにも衝撃的な言葉だった。ルードやライカのみならず、〈帳〉すらも呆然としてデルネアを見つめている。
「あくまで平穏にことをすませるつもりだったのだが、貴様らが態度を変えないと言うのならばしかたあるまい?」
 デルネアが右腕を上げると、二千からなる深紅の戦士達は、がちゃりという重厚な音とともに、一斉に剣を構えた。
 ルードは、〈帳〉、そしてライカと顔を見合わせた。あの兵士達が攻めてきたならば、自分達に勝ち目はないのだ。
「我がもう一度この腕を上げた時、烈火は進撃を開始する。貴様らにはもともと選択肢など無いのだ。我に刃向かったことを後悔して、死ぬがいい」
 そう言いつつもデルネアは、手を挙げる素振りをみせる。
「待って!」
 たまらず、ライカが叫ぶ。
「ならば聖剣を我に差し出せ! さもなくば、歴史書に新たな一節が加わろうぞ? 『ニーヴルの意志を継ぐ者達が北部に出現するも、勅命を受けた騎士達によって敗れ去る』とな」
「くっ……どのみち、貴公は我らを消すつもりだろうが!」
 〈帳〉は唇を噛んだ。

 その時、今まで北の空に留まっていた黒い雲が、ゆらゆらと忌まわしく動き始めた。“混沌”をもたらすそれは、自然界では考えられない速さで、とうとうウェスティンの地まで押し寄せてきた。灰色の空のもと、かろうじて明るさを保っていた上空は、ついに暗黒に覆われた。
 間もなく、終焉が訪れる。
 しかし、聖剣ガザ・ルイアートは暗黒に包まれた今、さらにもまして光り輝く。

「……もはや時は少ない。この地が“混沌”の支配下に置かれる前に烈火を差し向け、我は聖剣の“力”を我がものとする。それでも聖剣を渡せぬ、と言うか?」
 押し黙ったままの一同の様子を、デルネアは鋭い眼差しで見やる。剣をデルネアに渡すわけにはいかないが、渡さなければ烈火に蹂躙される。
 デルネアは、ルード達の悩む顔を見つつ、歪んだ笑みを浮かべ――ついに高々と腕をつきだした。
「ああっ!」
 ルードが声をあげるも、すでに時遅し。烈火達は怒濤の進軍を開始したのだ。
 もうもうと砂煙を上げながら、烈火は突進してくる。周囲に轟き、響き渡るのは甲冑の音、蹄鉄の音。そして二千からなる騎士達の闘気が、容赦なく敵対者の戦意を挫かんとする。
 デルネアはルード達に剣先を突きつけた。
「お前達も終わりだ。運命とやらに縛られた愚昧《ぐまい》な者どもよ」
 デルネアは勝利を確信し、刃向かう者に冷たく言い放った。

 ルードのやるべきことはもはやただ一つ。光り輝く聖剣を静かに構え、烈火の攻撃に備える。その横では〈帳〉が魔導の詠唱をはじめている。ライカは精神を集中させている――風の力を喚び起こして攻撃をしようというのか。
 だが、二千の屈強の戦士達を相手に、勝ち目など万に一つもないだろう。
「ライカ」
 ルードはライカを呼んだ。彼女に言うべき言葉は一つ。それは『逃げろ』ではない。すでにルードとライカは運命を共有しているのだから。
「……頑張ろう」
 ライカは目を開けるとルードを見つめ返す。微笑みを見せながら、力強くうなずいた。彼女の翡翠色の瞳は澄み渡り、迷いなどかけらも無い。

 ルード達一同が、ついに意を決したその時だった。
「待て!」
 ルード達の後方から駆けつける者がひとり。その凛とした声の持ち主はルード達の横を通り過ぎ、デルネアと対峙した。
 その者は、まとっていたローブを無造作に脱ぎ捨てると、迫りつつある烈火をきっと見据えた。

「烈火の戦士よ! 私はドゥ・ルイエである!」



作品名:フェル・アルム刻記 作家名:大気杜弥