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「舞台裏の仲間たち」 36~37

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 「そんな絶望の時に、
 座長さんから劇団再結成の葉書が届いたの。
 お腹に小さい生命を置いたまま、
 懐かしさだけでその再結成の場へ出掛けたわ。
 それが、レイコさんも良く知っているはずの時絵ママのところ。
 その入口で石川さんに再会したの。
 もう夢中で甘えちゃった・・・
 自分でもびっくりするほど、あとは大胆だった。
 勢いに乗ったまま、無理やり石川さんをドライブに誘いだして
 お正月を2泊3日で過ごしたの・・・
 でも彼は、とても紳士だった。
 全部、私の事情を知った上で、お腹の子供の面倒まで見るから
 本気になってつき合おうと言ってくれた。
 嬉しかったけど、今度は当の私が当惑しすぎちゃった。
 とてもじゃないけどこのままでは、
 石川さんの奥さんになんか、
 収まりきれないでいる自分に、そこで初めて気がついた。
 遅すぎる事は、充分に解っていたけど、
 でも石川さんに甘え切る訳にはいかないの・・・・
 このままじゃいけないって言う、
 そう言う声が聞こえてきた」

 レイコが茜の指を握りしめます。
一筋だけこぼれ落ちた涙を、茜がそっとこぶしでぬぐいます。

 「私は、自分の罪と自分の恥を償なわなければなりません。
 初めて碌山の『女』を見たときに、
 私はそれを確信をしました。
 石川さんの気持ちにこたえるためには、
 これは決して避けては通れない道なんだと、その覚悟も決めました。
 それからさきは、レイコさんもご存じのとおりです。
 でもね、今回の原因となった私の、
 この不始末だけは、実は誰にも話してはいないのよ、
 打ち明けたのは、レイコちゃんが初めてなの。
 お願いだから軽蔑をしないでね、
 こんな茜を。」

 
 レイコが、小刻みに揺れる茜の指先を抱きしめます。
恥ずかしさに頬を真っ赤に染め切った茜が、それでも必死に涙をこらえています。
レイコの指先にも、自然と力がこもります。

 「茜さん。
 あなたの本気は、みんながちゃんと受け止めています。
 あなたの本気と熱意が、時絵さんを動かし、座長さんを動かして
 順平と私を、この安曇野まで引っ張ってきました。
 いいえ、私たちのために。
 もっと大きなプレゼントまで用意をしてくれました。
 順平からのプロポーズは、茜さんが導き出してくれたものだと
 私は信じています。
 茜さん、私たちは、良い友人になれると思います。
 あなたが勇気を持って踏みだしてくれたその一歩目が、
 もうすでに、多くの人たちの心を一斉に動かし始めています。
 過ちをしっかりと見つめて、その先の希望にむかって
 恐れずに歩きだすという茜さんの生き方は、本当に素晴らしいと、
 私もそう思います。
 私も精一杯に、茜さんを応援をします。
 茜さん、是非、黒光を実現しましょうね。
 順平は、きっと茜さんのための『黒光』を書きあげてくれると
 思います・・・
 いいえ、かならず書かせます!
 きっと書かせて見せますとも。
 茜さんのためにも、私が、絶対に。」


 目じりに溜まった涙を小指で拭いていた茜が、ふっと笑みをこぼします。


 「あれぇ?、レイコちゃんのところは、カカア天下なの? 」

 「あ・・・・いいえ、決してそんな」


 二号館では、再び中庭の様子を見に来た石川さんが
ガラスに額を着けています。
やがて、嬉しそうに順平を振り返ります。

 「順平さん、お待ちどうさまでした。
 女性陣の長い話もようやく、平和的かつ友好的に終了したようです。
 これで心おきなく本命の『女』を鑑賞に行けますね。」

 「ほう、それはありがたい。
 ようやく、はるばる此処まで来た甲斐がありますね。
 やっと碌山の『女」にご対面です。
 われらの女性陣には、だいぶ邪魔をされましたが・・・・」


(38)へ、つづく