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「舞台裏の仲間たち」 32~33

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 ちひろは妹たちと一緒に、一度だけ満州に渡っています。
ここにいたのでは危険だということで本土へ戻り、東京で就職をしますが
空襲に会い、母の実家のある長野へ疎開をします。
そして突然となる終戦を、この母の生地で迎えています。


 [思わぬ時に国が降伏したという事は、
 こんなにも、一人一人の人間をクタクタにする。]

   ・ちひろの日記より
 
 これから先を、またどう生きるべきか・・・
突然、ちひろはまた考えなければならなくなりました。

 それは、たまっていた宿題がいっぺんに突きつけられたようなものです。
そうした時期に書き始めたのが、この『草穂』です。
この頃に、気になりはじめていた作家の一人が、冒頭でも紹介をした、
宮沢賢治です。

 手帳には・・・山のスケッチ、洋服のデザイン画、
妹らを描いたクロッキー、沢山のデッサン、詩や歌や思いなどが、
実にたんねんに綴られています。
この時期、ちひろは宮沢賢治にも深く傾倒をしていました。、
自らも、父母らとともにこの田舎に長く住む決心もしていたようです。


 ところが消せない「火」が、ちひろの中では燃えていました。 
「文化」の光への憧れが燃え、「東京」への憧れが
くつくつと持ち上がってきます。
そうした想いが手帳に書かれているたくさんの、「洋服のデザイン画」に
如実に表れています。

 その思いをかき消すかのように、九月六日の日記には
[南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経…]とくり返し
書きながら、必死でその思いを打ち消そうとしているページもあります。
しかしここでもまた、その封じかけた洋服を描きかけています。
そこの部分までで、この『草穂』は終わっています。


 「ちひろも、悩みながら自分の道を歩きぬいた一人なんだ。
 凄いよね、この人も・・・順平。ねぇ、順平ったら?あら。」

 返事が返ってこないために、レイコが顔を下向けてみると、そこには
気持ち良さそうに、レイコの膝で寝息を立てている順平が居ます。

 「んん、、も~う・・・順平ったら。」


(34)へ、つづく