「舞台裏の仲間たち」 32~33
母が初めて相手の顔を見たのは、結婚式の当日です。
そのようにして結婚を果たした二人ですが、夫婦仲は、
きわめてよかったと言われています。
長女の知弘(ちひろ)が生まれ、続いて妹がうまれています。
三人目も女で、岩崎家はこうして相次いで三姉妹が誕生しています。
男が稼いで、女が子育てをするのが一般的なこの時代、
夫婦が共に十分な収入を得ているわけですから、ちひろの家庭は
ずいぶんと裕福な部類に入りましった。
三姉妹は小さいときから、洒落た洋服を着て育ったとありました。
大正時代における洋服の少女たちですから、ずいぶんと
あか抜けた家庭です。
ちひろは健脚だったと言われています。
絵を描くのが大好きなこの少女は、妹達にくらべると
おとなしかったようですが、スポーツに関しては万能でした。
夏にはかならず北アルプスに登山をして、冬はスキーに行っています。
少女の時代に戦争まだ、ちひろの身近にはありません。
20歳のときにしたちひろの最初の結婚は、失敗に終わります。
「もう結婚はしない」と一度は心に決めた・・・
そのときのことを、後になってからちひろが書き残しています。
しかしその一方で「では、今後をどう生きるか」などと、思い悩む暇も
実はなかったようです。
暗い時代の波に押されながら、本土へと迫ってきた太平洋戦争の
深刻な戦況は、日に日に厳しさを増してきます。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 32~33 作家名:落合順平