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「舞台裏の仲間たち」 30~31

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 「人質の救出の映画みたいで、楽しかったわ。
 茜さんが来てくれて大助かりです。
 順平君、許可を渋っていた主治医を説得してくれたのは、
 此処に居る茜さんよ。
 一週間目での外泊なんて前代見聞だという話を見事に覆して、
 主治医の先生を説得してしまうんだもの、
 私には到底出来ない芸当です。
 茜さん、一体どんな手を使ったのですか。」

 「レイコちゃん、
 女の武器にも色々あるけど、
 色気よりもやっぱり、女の涙が一番効きめがあるものよ。
 本当の理由なんかどうでもいいことだもの。
 例えば・・・瀕死の姉の見舞いのために、どうしても外泊の許可をくれと
 本気で泣いてしまえば、お医者さんだってイチコロだわ。
 第一、この先で無事に退院してしまえば、
 二度と用のない病院のことだもの、
 嘘だって、使い放題の方便だわ。」

 「そうですよねぇ~、
 茜さんは、劇団が誇る演技派女優の一人ですもの。
 そのくらいなら、お手の物ですね。」

 女性二人に後押しをされて、
大きなワンボックスタイプの車の中へ順平がまさに荷物のように
「積み込まれて」しまいます。
仲良く運転席と助手席に座った一つ違いの女同士は、出発の前から
もうすっかりと順平の存在などは忘れ、これから行く安曇野の話で充分すぎる
盛り上がりなどを見せています。
 
 「茜さん、
 ちひろの絵は見たことがありますか。
 あの柔らかい、いわさきちひろの絵は、
 保育園の子供たちも大好きで、
 大人でも、癒されるものが何故かたくさんあります。」


 「私も東京の、
 ちひろ美術館なら行ったことがあるけれど、
 安曇野に出来たというのは知らなかったなぁ・・・
 ちひろの絵本なら、
 病院にもたくさん置いてあるわよ、
 子供たちより、いい年をしたお母さんたちの方が真剣に見ているわ。
 あの人の絵って、そういう魅力が
 たしかに、たっぷりとあるのよね。」




 碌山と黒光の話題は、まったく微塵もでてきません。
絵本作家であるいわさきちひろの話で盛り上がっているうちに、車は
石川さんが勤務をする公民館の駐車場に滑り込んでいきます。


 半そで姿の石川さんが、車が到着をするはるか前から
もう手などを振っています。
運転席側へ回り込んできた石川さんが、「運転を代わります」とレイコへ声をかけます。
頷いたレイコは、運転席と助手席の狭い空間をすり抜けて、
後部座席で横たわっている順平の傍までやってきました。

 「じゃあ、私は、後部座席で荷物の整理係を担当します、うふっ。」

 「誰が・・・荷物だって?」

 「その程度でしょう、今のあなたは。
 自分で身動きがが出来ないんだもの、ほとんど荷物と一緒です。
 ねぇ・・・
 石川さんも、わざわざ同行してくださるそうですよ。
 女ふたりでは、もしもの時があったら大変でしょうからって、
 お休みを取ってくださいました。順平のために。
 贅沢だわょね・・・
 美人の看護婦さんに運転手さんまで付いていて、
 おまけに、レイコがつきっきりでべったりだもの。
 きっとこれから2日間は、
 最高の旅になると思います。」

 「そのわりには、ちひろで会話が盛り上がっていますねぇ。
 本来の目的は碌山の作品だと思うのですが、ここまでの会話を聞く限り、
 女性陣の一番の目的は、どうやら、
 いわさきちひろ絵本美術館のようですね。」