窓の外
その窓を山村がまともに見たのは、早めに出勤した翌朝八時過ぎのことだった。外から縦長の写真をガムテープで貼り付けてあった。山村が新入社員の宮田愛子とディープキスをしている写真だった。大きさはA4だろう。カラープリンターできれいに印刷されている。場所は先週の社員旅行の際に訪れた温泉街から少し離れた湖の畔である。夕陽が紅葉を鮮やかに美しく輝かせている。わざわざタクシーに乗ってそこまで行ったのに、まさか尾行されていたとは……。
「おはようございます。随分早い出勤ですね」
下山だった。彼はいつも出勤が早い。
「A4のコピー用紙を二枚も貼っておけばいいかな」
「そうですね。ところで、宮田さんは急に退職したみたいです」
それは知っている。昨夜、彼女から電話で聞いていた。
「そうか。俺も転職するか」
「迂闊でしたね。誰が犯人なのか、心当たりはありますか?」
「判らないよ。写真マニアは大勢いるからな」
「コピー用紙とセロテープを取って来ます」
「ああ、悪いね」
実際に窓の外から貼ったのは社内の人間ではないだろうと、村山は思った。写真を撮影してプリントアウトした社員の誰かが、窓を拭く清掃会社の作業員に金を掴ませて貼らせたに違いない。
窓ガラスの清掃が行われたのがいつだったのか、村山には判らない。昨日の朝かおとといの午後あたりだろうか。仕事中に背後の窓を見ることはないので、まるで見当もつかなかった。
(続く)