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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ

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「何故、ダレンとメリッサはいなくなったんだろうな」
 キャンプに戻ってティリー達と合流し、発見されたダレンの眼鏡とメリッサの本から二人は蝙蝠の魔物に喰われたのだという結論に達した後、アルベルトはそう言った。
「そりゃあの魔物に喰われたんだろ。ダレンの奴、自衛も出来ねえくせに一人でのこのこ行動するからこうなるんだ」
「それだよ。なぜ皆に黙って拠点(ベースキャンプ)を離れたんだ? メリッサも何のためにあの場所へ行った? それもわざわざ一人で」
「・・・確かに一人で行動した理由があるはずよね」
 ろくに身を守れもしないのに一人で行動したということは、それ相応の理由があったはずである。研究家二人が動く相応の理由ということとなると、研究絡みのことだとは思うのだが・・・
「・・・・呼ばれたのかもしれませんわ」
 焚き火を見つめたティリーが唐突にそう言った。
「ここは生贄の町ですもの。悪魔召喚のために命を奪われた人達の怨念が残っているんですわ。彼らは生きているわたくしたちを羨んで、地獄へ引きずり込もうとしているのかもしれません。ダレンもメリッサも、彼らの呼び声に答えてしまったばかりに姿を消してしまった。地獄へ連れて行かれてしまったのかも・・・・」
「あんた何言い出すのよっ! お、怨念なんてあるわけないじゃない!」
 顔を真っ青にしたサニアがそう反論する。しかしティリーは真面目な顔で答える。
「あらサニア。悪魔が存在するのに、死者の怨念が存在しないはずがないでしょう?」
「ないわよ! ないない! いてたまるものですか!」
 全力で否定したものの、やっぱり怖いのか隣のグラントにしがみつくサニア。その様子を見たアルベルトは苦笑すると、ティリーに言った。
「残念ながら、死者の怨念が犯人ということはなさそうだ。ここに幽霊はいない」
「そうなんですの? 残念。そうだと面白いと思いましたのに」
 二人の失踪に面白みを求めてどうすると思ったが、ティリーは冗談のつもりだったらしく悪びれた様子はない。続いて発言するものがいなかったので、ふと何気なく辺りを見回したアルベルトは、人数が一人足りないことに気がついた。
「そういえばボリスはどこへ?」
「それがここに戻ってきてないみたいで、どこにも姿がありませんの。慌てていて道に迷ったのかもしれませんわね」
 世話の焼ける奴よね、とサニアが苛立たしげに呟いた。
「探してみよう」
 アルベルトはそう言って松明を手に取った。
「仕方ねぇな」
 やれやれとグラントが腰を上げる。その隣に座っていたレスターも手を上げて捜索を志願した。
「・・・・俺も行こうか?」
「いや、そんなに遠くへは行っていないだろうから二人で十分だ。皆はここで待っていてくれ」
 踵を返し、通路へと歩を進める。その背中にリゼが声をかけた。
「探しに行った挙句行方不明になるなんていう間抜けなことはないようにね」



 ボリスが迷いそうな場所と言えばあの長い直線通路に一つだけある枝道しかない。そう思ったアルベルトとグラントはその枝道を捜索することにした。入ってしばらくすると道が二股に分かれていたので、二手に分かれることとなった。
 地下道の中は静かだ。足音と松明がはぜる音だけが聞こえる。生き物の気配はなく、生きていない物の気配もまた、なかった。
 自我を持たない影のような幽霊なら、どんな場所にも大概いる。しかしマリークレージュにはその程度の幽霊すらいない。一度に大勢の人間が殺されているのだから、ティリーが言うように怨念の一つや二つ残っていてもおかしくなさそうなのに。
(悪魔召喚の生贄にされると、怨念すら残さず喰い尽くされるのかもしれないな・・・)
 だからこの街には悪魔と魔物以外、何もいないのだ。いや、存在出来ないのかもしれない。
とにかく速くボリスを見つけよう。そう思ってアルベルトは足を速めた。
 十字路を直進してしばらくすると、突然通路が途切れた。
そこは大きな水路があった。かなり深く、底からざあざあと水の音がする。思えば今通っているこの通路も地下水道の一部なのだ。この大きな水路は細い地下水道がいくつか合流したものなのだろう。
「まさかここに落ちたりしてないだろうな」
 水路の壁は垂直な上、石材がしっかり組まれていて取っ掛かりになりそうなものがない。一度この水路に落ちたら戻るのは難しいだろう。助けるのもまた然りだ。
 いったん十字路まで戻って、別の方向を探すか。そう思って踵を返そうとした時だった。背後から殺気が襲いかかってきた。
 それが何者であるか確かめる前に、殺気はアルベルトに突進してその手から松明をもぎ取った。松明はくるくる回りながら縦穴を落ちていく。光源を絶たれ暗闇が押し寄せてきたところへ、再び何者かが体当たりを仕掛けてきた。気配と直感を頼りに右に避け、そいつに向かって拳を突き出す。確かな手ごたえがして、そいつは呻き声を上げた。
「誰だ!?」
 返事の代わりにそいつはまた飛び掛ってきた。アルベルトはかがんで避け、腹の辺りに肘を入れる。手加減はしなかったのにそいつは引くつもりはないらしい。むしろ反撃されたことに焦ったのか、死に物狂いの突進を仕掛けてきた。直撃はしなかったが、穴の縁から足を踏み外すには充分な衝撃に見舞われた。
 重力に引かれてアルベルトは落下し始めた。水の音が見る見るうちに大きくなる。水面がすぐそこまで迫っていた。
 水路の水はアルベルトを飲み込むと、さらに勢いを増しながら彼を容赦なく押し流していった。