Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ
翌朝。村で二つの葬式が行われた。一つは魔物の襲撃で命を落とした村人のもの。もう一つはリリーナのものだ。
ヨハンはすっかり生気を失っていた。あまりのやつれようにこのまま衰弱死するか後追い自殺でもするのではないかと村人全員に心配されたほどだった。
村人達はリリーナがどういう状態だったか知らない。ヨハンはあれからほとんど喋らなかったし、事実を伝えれば騒動になるからだ。葬儀が終わった後、二人は黙って村を出た。
「あの人は大丈夫だろうか」
山道を登りながらアルベルトは呟いた。
「さあ。本当に神様とやらが慈悲深いなら、あの人を救ってくれるんじゃないの」
「リゼ。神を軽く見るような発言は慎んだほうがいい」
敬意の欠片もない発言にアルベルトは眉をひそめたが、リゼはどこ吹く風だった。
「残念ながら私は魔女よ。私に崇められたら神様もいい迷惑でしょうよ」
そう言って彼女は笑う。
如何なる悪魔も祓う神のような力を持ち、救世主と呼ばれながらも、リゼには信仰心が全くと言っていいほど無い。ここまで神を信じない人がいるのかとアルベルトは驚いたぐらいだ。
しかし、笑う彼女を見ていて思う。リゼはただ信じられないかもしれない。ラオディキアの貧民街の人々が、教会に、そして神に不信感を抱いていたのと同じように。救いを語りながら苦難の時に救ってくれない神様なんて信じられるものか、と。
「そういえばあなた、他人には視えないものが視えるって言っていたでしょう。ちなみに私はどう視える?」
リゼが興味深そうに聞いてくる。その問いに、初めて会った時から気付いていたことを答えた。
「そうだな。悪魔祓い師でもましてや悪魔のものでもない。ただならぬ力を持っている。それが何なのかは分からないが」
リゼはしばらく考え込んでいたが、やがてふとこう言った。
「悪魔祓い師としては便利でしょうね、その眼」
アルベルトは曖昧に微笑んだ。確かにこの能力のおかげで悪魔祓い師になれたし、役立つことも色々あった。それと同時に、文字通り視ていることしか出来ない自分がつくづく嫌になるのだ。
何気なく、アルベルトは空を視た。
そこには相変わらずたくさんの悪魔が所狭しと犇めき合っていた。
作品名:Savior 第一部 救世主と魔女Ⅰ 作家名:紫苑