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「この店は俺達が乗っ取った!全員携帯と財布、そのほか金になるものは全部出せ!」


男のひとりが店員の首元にナイフを突きつけもうひとりがナイフをちらつかせながら大声で叫んだ。
馬鹿め。そう言われて素直に出すエリートがいるものか。こんな不測の事態に備えて僕はカバンにスマホを一台。スーツの裏ポケットにもう一台スマホが入っている。
カバンのスマホを奴らに渡して裏ポケットに入っているスマホでこっそり警察に通報、これが僕の作戦だ。エリートの知性が光るいい作戦だと思う。
男のひとりが客のところに回って金目の物を回収しているあいだに僕は隠し持っているスマホの電源を入れた。


「そうはさせないぞ!」


緊張感に包まれた店内も空気に最悪な一石を投じたのは、さっきのオッサン、松田だった。
唖然とする客たち、犯人の男たち。そして僕。オッサンはそんな空気などものともせずずんずんと犯人のところに歩いて行った。


「強盗は犯罪です!我々地球防衛軍は犯罪を許さない!」

「あ?なんだこのオヤジ・・・。頭おかしいんじゃねえのか?」


僕にはわかる。あのオッサンはあくまで本気なのだ。あのオッサンに限って言えば頭のおかしいようなことを話している間はまともなのだ。
それがわからない犯人はオッサンを嘲るように笑い、店員につきつけていたナイフをオッサンに向けた。


「あのなあ、強盗だってこれが仕事なんだよ。わかったんならさっさとさがりな。オヤジだって早死したくはないだろ?」

「そうは思わないね!人が汗水垂らして働いて手に入れたお金を根こそぎ奪っていくなんて仕事じゃないよ!さあ、地球防衛軍の真の力を思い知るがいい!」

「なんだって?チキュウボウエイグン?おい、こいつやっぱり頭おか・・・うぐっ・・・」


ゲラゲラ笑っていた犯人のひとりが不意に呻いてずるずるとじめんに崩れ落ちた。信じられないけどこのオッサンが目にも止まらぬ速さで犯人の後ろにまわり首にチョップしたのだ。
まさかこんな変な格好をした変なオッサンにのされるとは思ってなかっただろう。残りの犯人がぎょっとしてオッサンを見た。


「てめえ・・・なにしやがった!」

「なに、私の仕事は地球を守る正義の味方だからね。悪を排除したまでだよ」


目玉が飛び出しそうなくらい激高している犯人に向かってオッサンはまたニッコリ笑ってみせた。
オッサンが手で挑発するような仕草を見せると犯人はナイフを持ったままおもしろいようにあっさりと殴りかかってきた。


「死ねえええええええええええええ!!!」


結果は言うまでもない。僕は回収されることのなかったスマホを取り出し警察に電話をした。









そのあと警察が到着するまでオッサンに聞いたところによるとオッサンは地球を守るなら自分も強くならなければならないと考え、格闘技全般はおおかた経験者なのだと言った。
因みに残りのメンバーのキャシーも免許皆伝なのだそうだ。

そして警察に感謝され、店長と人質にされていた店員からひたすら頭を下げられて今現在僕は何故かこのオッサンと店の前で立ち尽くしていた。


「・・・・・・お、おい」

「なに?」

「あの・・・なんだ、さっきは悪かったな。さんざん馬鹿にしたようなこと言って」

「いいんだよ。君は少なくとも私を見て私にツッコミはしたけど否定はしなかったでしょ?元の性格がいい証拠だよ」

「・・・ああ、ありがとう」


さっきまではやたらと饒舌だったオッサンが何故か静かだ。僕はゴホンと咳払いをしてから何を話すか考えてもいないのに口を開いた。


「あ、あー・・・そうだな。これからは僕も心機一転がんばってみようと思う。うん」


するとオッサンはものすごく嬉しそうな顔をした。


「それじゃあ宮野くん・・・きみ、ついに地球防衛軍に入ってくれるんだね?」

「ああ、それはもちろん・・・」


オッサンにつられて僕も思わず笑顔になる。心から笑顔になれたのは何年ぶりだろうか。
このオッサンには感謝している。僕が僕自身を見直すきっかけをくれたのだから。
エリートという言葉にすがっていた僕が、エリートという言葉だけでは分類できない人々がいるっていうこと気付けたのだから。
僕はニッコリ笑ってオッサンに言った。


「お断りします」


雲一つない青空に、オッサンの叫び声が響いた。
作品名:お断りします 作家名:中川環