お断りします
僕の名前は宮野亘。小学生の頃から成績は常に学年トップ。
中学、高校と生徒会長をつとめ更に剣道部に所属しインハイ優勝。バレンタイン、夏休み、クリスマス、イベントごとに女子からひっぱりだこ。
大学はあのT大、しかも主席。
就職した会社でも営業成績は常にトップ。
生まれてこの方20余年、失敗らしい失敗もなく順風満帆な人生を送ってきた。
いわゆるエリートである。繰り返す。宮野亘27歳独身、エリートである。
「いやー!君だけだよ!!おじさんうれしい!君だけだからね、おじさんを見てくれたのは!」
「僕はあんたなんか見てない、断じて見てない」
「恥ずかしがらなくてもいいんだよお、もう!ホラ、立ち話もなんだからちょっと近くのファミレス行かない?」
そんなエリートの僕が道端で電柱と一体化してるオッサンに絡まれるわけがない。
「じゃ、コーヒー二つで!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませー」
気付いたらここはおそらくファミレス(エリートはファミレスなんて使わないからな、ここがファミレスかわからないわけだ。エリートだからな)・・・のようなところ。
目の前には先の電柱と一体化してたオッサン。やけにニヤニヤしている。正直言ってただの変質者だ。ちょっと気持ち悪い。
エリートの僕ならいつもなら外回りを済ませて会社に帰っている頃だ。それが何故かこんな不審者と呑気にコーヒーを飲んでいる。何故だ。僕が一番聞きたい。何故だ。
おそらく原因はこのオッサンとのファーストコンタクトにあると思う。それはほんのついさっきのことである。僕はいつもの営業を済ませて会社に帰る道を歩いていた。
エリートたるもの、常に自分の体にも気を使わなければならない。最近ちょっと運動不足気味だったからいつもはタクシーで帰る道を歩くことにしたわけだ。
するとどうだろう。少し狭い道に入ってから向こう側から歩いて僕とすれ違う人々がやや気まずい顔をしているのだ。
はじめはエリートである僕が、そう、このエリートであるこの僕が!わざわざ歩いているのに気付いて僕の頭の回転の速さに驚いてるだけかと思っていた。
それがまったく外れたのだ。
それから少し歩いていったところに、電柱にしがみつくようにしてオッサンが立っていたのだ。しかも電柱と同じような色のわけのわからないデザインのスーツを着ている。
頭には『地球防衛軍』とでかでかと書かれたヘルメットをかぶっている。そのいかにも怪しいオッサンが目の前を歩行する人々を穴があくかの如く見つめているのである。
あまりにも鬼気迫る様子なので人々は気まずい顔をしていたのだ。
その変なオッサンのせいであって、あくまでエリートであるこの僕が原因ではないとわかった瞬間、「こいつにだけは負けたくない」という思いが湧いてきて思わずオッサンを凝視してしまったのだ。
見つめあえうこと5秒、僕から目をそらすのはエリートのプライドが許さないので向こうが目をそらすのを待っていたらさっきのやりとりにつながるというわけである。
「あ、名前聞いてなかったね。私は松田。隊長って呼んでね。君は?」
「・・・・・・宮野。宮野亘だ」
「亘くんだね!」
「宮野と呼べ。もしくはエリート」
「・・・宮野エリートくんね!」
「宮野でいい」
「なんだよいけずー」
「・・・で?あんた一体何者なんだ?エリートであるこの僕に目をつけたというのは十分褒めるに値すると思うが・・・」
「いや私ね!地球防衛軍ってのやってるんだよね!」
「は?」
「聞こえなかった?地・球・防・衛・軍!」
「いや単語そのもは聞き取れた。エリートだからな。意味がわからんと言ってるんだ。なんだよ地球防衛軍って」
「その名の通り地球を守る軍隊だよ。ねえ、君、素質あると思うんだ!一緒に地球を守りませんか?
いやー、困ってたんだよねー。誰も私が見えてないみたいでこっちを見向きもしないしさ。あそこで敵状視察と兼ねて隊員のスカウトもしてたんだ」
「お断りします。っていうかお前が見えてなかったんじゃなくてあえて目をそらしたんだよ」
「だけど隊員が全然少なくてねえ。君が3人目だよ」
「聞けよ!入らねえよ!っていうか3人目かよ!間のひとり誰だよ!」
「キャシーさ」
「外人じゃねえか!誰だキャシーって!」
「キャシーはね、34歳のバツイチで・・・」
「真面目に答えなくていい!」
危険だ。このオッサンは危険だ。エリートであるこの僕ですら気付いたら話の主導権をオッサンが握っている。
僕はコーヒーを一口飲んでゴホンと咳払いした。
「いいか?僕がエリートだ。お前のようにそんなくだらないことに時間を割いてる暇はないんだ」
「ちょちょちょちょっと!地球を守る仕事を『くだらない』なんて言っちゃいけないよ!何言ってるんだい!」
「くだらないことにくだらないと言って何が悪い。確かにエリートであるこの僕なら地球を守るなんて造作もないことだがな。
だいたい地球ならお前じゃなくても全世界の軍隊やら自衛隊が守ってくれてるだろ」
「違うんだよ!彼らはまだわかってないんだ!もっと違うところから脅威は迫っているんだよ!それをぼくらは守るんだよ!」
「違うところ?」
「そう・・・彼ら、漆黒の闇を思わせるその風貌で大空を滑るように飛ぶ、彼らは都会の狭い道路に現れ謎の異物を投下していくんだ・・・電柱の近くがそのスポットさ。
だがその攻撃法と攻撃範囲しかまだわかっていない・・・。だから私はこうやって電柱と同化することによってその見えざる敵の生態を調べようとしているわけ」
「それカラスじゃねえか!何が脅威だバカヤロウただの野鳥だよ!お前がやってんのは敵場視察じゃなくてただのバードウォッチング!糞まみれのバードウォッチング!」
「なんてことだ・・・!彼らの正体を知る人物がここにも居たなんて・・・!!だめだよそれを表で言いふらしちゃ。機関のやつらがやってくるからね」
「ちょっと落ち着けよ!お前地球防衛軍じゃなくてただの野鳥観察家じゃねえの?なあ、頼むから僕を巻き込まないでキャシーと2人で仲良くバードウォッチングしてろ、な?」
「いや、彼らの正体を知ってるならなおさら防衛軍に入ってもらわないと!私とキャシーで、命をかけて君を守るよ」
「バツイチと変人に守られるほど落ちぶれちゃいねえわ!話はそれだけだろ?付き合ってられん。帰る!」
あまりのアホさ加減にさしものエリートである僕もあきれ果てた。伝票をひっつかんで立ち上がる。
そうだ、僕は早く会社に戻って報告書をまとめないといけないんだ。来週の会議で使う資料もまとめておかないと。
「キャアアアアアアアア!!!!」
その瞬間、レジのあたりから大きな音と店員らしき女性の叫び声がした。
レジに立つ制服姿の女性のとなりにマスクにサングラスをかけたおそらく男が2人。手にはどちらもナイフを持っている。
状況から察するにこれは強盗である。相手が1人ならエリートであるこの僕だけでなんとかなるがナイフを持った男が2人となると分が悪い。
僕はその場で状況を見守ることにした。
中学、高校と生徒会長をつとめ更に剣道部に所属しインハイ優勝。バレンタイン、夏休み、クリスマス、イベントごとに女子からひっぱりだこ。
大学はあのT大、しかも主席。
就職した会社でも営業成績は常にトップ。
生まれてこの方20余年、失敗らしい失敗もなく順風満帆な人生を送ってきた。
いわゆるエリートである。繰り返す。宮野亘27歳独身、エリートである。
「いやー!君だけだよ!!おじさんうれしい!君だけだからね、おじさんを見てくれたのは!」
「僕はあんたなんか見てない、断じて見てない」
「恥ずかしがらなくてもいいんだよお、もう!ホラ、立ち話もなんだからちょっと近くのファミレス行かない?」
そんなエリートの僕が道端で電柱と一体化してるオッサンに絡まれるわけがない。
「じゃ、コーヒー二つで!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませー」
気付いたらここはおそらくファミレス(エリートはファミレスなんて使わないからな、ここがファミレスかわからないわけだ。エリートだからな)・・・のようなところ。
目の前には先の電柱と一体化してたオッサン。やけにニヤニヤしている。正直言ってただの変質者だ。ちょっと気持ち悪い。
エリートの僕ならいつもなら外回りを済ませて会社に帰っている頃だ。それが何故かこんな不審者と呑気にコーヒーを飲んでいる。何故だ。僕が一番聞きたい。何故だ。
おそらく原因はこのオッサンとのファーストコンタクトにあると思う。それはほんのついさっきのことである。僕はいつもの営業を済ませて会社に帰る道を歩いていた。
エリートたるもの、常に自分の体にも気を使わなければならない。最近ちょっと運動不足気味だったからいつもはタクシーで帰る道を歩くことにしたわけだ。
するとどうだろう。少し狭い道に入ってから向こう側から歩いて僕とすれ違う人々がやや気まずい顔をしているのだ。
はじめはエリートである僕が、そう、このエリートであるこの僕が!わざわざ歩いているのに気付いて僕の頭の回転の速さに驚いてるだけかと思っていた。
それがまったく外れたのだ。
それから少し歩いていったところに、電柱にしがみつくようにしてオッサンが立っていたのだ。しかも電柱と同じような色のわけのわからないデザインのスーツを着ている。
頭には『地球防衛軍』とでかでかと書かれたヘルメットをかぶっている。そのいかにも怪しいオッサンが目の前を歩行する人々を穴があくかの如く見つめているのである。
あまりにも鬼気迫る様子なので人々は気まずい顔をしていたのだ。
その変なオッサンのせいであって、あくまでエリートであるこの僕が原因ではないとわかった瞬間、「こいつにだけは負けたくない」という思いが湧いてきて思わずオッサンを凝視してしまったのだ。
見つめあえうこと5秒、僕から目をそらすのはエリートのプライドが許さないので向こうが目をそらすのを待っていたらさっきのやりとりにつながるというわけである。
「あ、名前聞いてなかったね。私は松田。隊長って呼んでね。君は?」
「・・・・・・宮野。宮野亘だ」
「亘くんだね!」
「宮野と呼べ。もしくはエリート」
「・・・宮野エリートくんね!」
「宮野でいい」
「なんだよいけずー」
「・・・で?あんた一体何者なんだ?エリートであるこの僕に目をつけたというのは十分褒めるに値すると思うが・・・」
「いや私ね!地球防衛軍ってのやってるんだよね!」
「は?」
「聞こえなかった?地・球・防・衛・軍!」
「いや単語そのもは聞き取れた。エリートだからな。意味がわからんと言ってるんだ。なんだよ地球防衛軍って」
「その名の通り地球を守る軍隊だよ。ねえ、君、素質あると思うんだ!一緒に地球を守りませんか?
いやー、困ってたんだよねー。誰も私が見えてないみたいでこっちを見向きもしないしさ。あそこで敵状視察と兼ねて隊員のスカウトもしてたんだ」
「お断りします。っていうかお前が見えてなかったんじゃなくてあえて目をそらしたんだよ」
「だけど隊員が全然少なくてねえ。君が3人目だよ」
「聞けよ!入らねえよ!っていうか3人目かよ!間のひとり誰だよ!」
「キャシーさ」
「外人じゃねえか!誰だキャシーって!」
「キャシーはね、34歳のバツイチで・・・」
「真面目に答えなくていい!」
危険だ。このオッサンは危険だ。エリートであるこの僕ですら気付いたら話の主導権をオッサンが握っている。
僕はコーヒーを一口飲んでゴホンと咳払いした。
「いいか?僕がエリートだ。お前のようにそんなくだらないことに時間を割いてる暇はないんだ」
「ちょちょちょちょっと!地球を守る仕事を『くだらない』なんて言っちゃいけないよ!何言ってるんだい!」
「くだらないことにくだらないと言って何が悪い。確かにエリートであるこの僕なら地球を守るなんて造作もないことだがな。
だいたい地球ならお前じゃなくても全世界の軍隊やら自衛隊が守ってくれてるだろ」
「違うんだよ!彼らはまだわかってないんだ!もっと違うところから脅威は迫っているんだよ!それをぼくらは守るんだよ!」
「違うところ?」
「そう・・・彼ら、漆黒の闇を思わせるその風貌で大空を滑るように飛ぶ、彼らは都会の狭い道路に現れ謎の異物を投下していくんだ・・・電柱の近くがそのスポットさ。
だがその攻撃法と攻撃範囲しかまだわかっていない・・・。だから私はこうやって電柱と同化することによってその見えざる敵の生態を調べようとしているわけ」
「それカラスじゃねえか!何が脅威だバカヤロウただの野鳥だよ!お前がやってんのは敵場視察じゃなくてただのバードウォッチング!糞まみれのバードウォッチング!」
「なんてことだ・・・!彼らの正体を知る人物がここにも居たなんて・・・!!だめだよそれを表で言いふらしちゃ。機関のやつらがやってくるからね」
「ちょっと落ち着けよ!お前地球防衛軍じゃなくてただの野鳥観察家じゃねえの?なあ、頼むから僕を巻き込まないでキャシーと2人で仲良くバードウォッチングしてろ、な?」
「いや、彼らの正体を知ってるならなおさら防衛軍に入ってもらわないと!私とキャシーで、命をかけて君を守るよ」
「バツイチと変人に守られるほど落ちぶれちゃいねえわ!話はそれだけだろ?付き合ってられん。帰る!」
あまりのアホさ加減にさしものエリートである僕もあきれ果てた。伝票をひっつかんで立ち上がる。
そうだ、僕は早く会社に戻って報告書をまとめないといけないんだ。来週の会議で使う資料もまとめておかないと。
「キャアアアアアアアア!!!!」
その瞬間、レジのあたりから大きな音と店員らしき女性の叫び声がした。
レジに立つ制服姿の女性のとなりにマスクにサングラスをかけたおそらく男が2人。手にはどちらもナイフを持っている。
状況から察するにこれは強盗である。相手が1人ならエリートであるこの僕だけでなんとかなるがナイフを持った男が2人となると分が悪い。
僕はその場で状況を見守ることにした。