世界とセカイ
第一章 初めてのセカイ
普通の宇宙。普通の地球。普通の日本。普通の愛知県。普通の町。普通の俺。
何もかもが普通で、うっとうしい。
特に突飛な事件も、人物も。転校生だって来やしない。そう、普通過ぎるこの現状に俺は飽き飽きしていた。
俺の名前は、石田岳登。現在高校三年生。絶賛受験勉強中である。
数十人のクラスメイトが教師の説明に聞き入っているなか、窓際という天国にいる俺は一個下の学年が外で体育をしているのを眺めながら、襲撃してくるテロリストを謎の力に目覚めた俺がそいつらをぶっ飛ばす、という馬鹿げた妄想をしていた。
「おい、石田!もうすぐ受験というのにお前は何ボーッとしているんだ」
教師が俺の方を指さし、そう言った。手には赤のチョークが握られておりすぐにでも投げてしまいそうだった。
クラスメイトはくすくす笑い、こちらをじろじろと見つめていた。
はぁ~……このやりとりは何度目なんだよ。
俺は心の中でそう呟く。
マジだよなぁ。クソうぜぇw
俺の中で誰かの声が聞こえる。
うんうん。分かってくれるか!
そいつに俺は答える。
まぁな。
そいつはそう言うと、突然反応を示さなくなった。
……。…………。…………?
あれ……?俺、誰と喋ってるんだ?
キョロキョロと周りを見回す。「また石田か……」と教師は呟く。
「先生!」
俺は叫ぶように言う。
やや驚き気味に教師は答える。
「どうした?」
「俺、頭逝ってますか!!??」
「あぁ、逝ってるな」
教室中がざわめく。
あぁ、超恥だ……orz
そのまま、俺は机に突っ伏した。
●
「んあぁ……、うぅ」
どうやら、教科書の上に顔を押しつけていたら寝てしまったようだ。
カァカァカァ、とカラスが鳴く空は夕日によって紅色に染まっていた。外のグラウンドには、熱心に部活をする下級生がいた。
時計は、五時過ぎを指している。もうすぐチャイムが鳴るはずだ。
「……」
特にする事が無かったので、ただただボーッとしていた。
……。…………。
チャイムが……。チャイムが……あれ?ならない?
「どうした、チャイムは鳴らねぇのか?」
「そうだなぁ」
後ろから声がすると刹那、反射的に後ろの方を向く。
「バーイバイ」
後ろには誰もいない。すると、廊下からコツコツコツ……という音が聞こえた。
部活の時間だぞ?誰もいないはず……!?
そう瞬間的に考えると俺は、椅子が倒れるのをお構いなしに立ち上がり教室の隅のドアに駆け寄る。
ドアを壊さんばかりに勢いよく開けるとすぐさま左右を覗く。
「い……居ない……」
人一人いない廊下を見た俺は、倒れた椅子を直さず机に掛かっていた鞄に教科書類を流し込むと、逃げるように学校を後にした。
「ハァッ、ハァッ!ハウッ!」
深呼吸をし、感覚が短くなった呼吸を整える。
すると、体全体に鳥肌が立つ。整えた呼吸が再び荒くなる。
気分が悪くなる。
「よう、また会ったな。今度は俺がこっちの世界に存在する」
後ろを振り向いた瞬間、そこにいたのは――――
――――俺だった。
「……はッ?」
「だーかーらー、お前は<セカイ>に行けって事だ。Are you OK?」
「NOだ」
そいつは、「ハァ……まったく俺は」とため息をつくとこちらへゆっくりと近づいてくる。
「世界の住民と<セカイ>の住民が入れ替わるには、二つ方法がある。一つは、双方が認証し、<歪み>に世界の住民を送り込む。もう一つは……」
俺の目の前まで来たそいつは、ニタァッと不気味に笑みを浮かべると俺の腹部に一発、重い打撃をお見舞いした。
「どちらかが、どちらかを殺せばいい」
「あぁ、そうかい……」
そうすると、半ギレの俺は作り笑顔を浮かべ、そいつの顔面をぶん殴った。