木漏れ日
「私を許してくれる神様なら、会ってみたい。でも、そんな神様はいるはずない……。」
湿った森の地面と同じように、彼女の心にはまだ光が差してこない。彼女の心には、未だ「魂」という邪悪な森が生い茂っているのだ。
彼は、そんな彼女の孤独な心が理解できるような気がした。
「森なら、専門だよ。」
「どういうことよ。」
彼と彼女の視線が、薄闇の中で交わった。
「森は少なくても、多過ぎてもいけない。『人』という土地の中にも、森はあるんだ。森は心を埋め尽くして、闇を作ってしまう。だからね……。」
彼は言葉を切り、両手を高く掲げた。するととたんに、風がびゅうと吹いた。暴れ狂う風に巻き上げられた髪のカーテンの向こう側に、彼女はとても美しいものを見た気がした。
先程まで空を完全に覆っていた緑のほんの少しの隙間から、まっすぐに、自分たちを照らす光。
「あ――」
「僕たちは、闇の向こうにある物を信じなくちゃいけないんだ。多過ぎる緑の向こう側に、こうして光が差しているように。」
両手を下ろしてしまうと、あれほど騒がしかった風も止み、緑は彼女たちとその向こうにある物との間に立ちふさがりはしたけれども。
彼女は、もう見てしまっていた。
立ち上がる。そしてまた歩き出そうと、足を動かした。
「どこへ行くの?」
背中から声が聞こえる。振り向くと、彼もまた立ち上がっていて、彼女にその瞳を向けていた。
今から言おうとしている言葉が、本当に彼女の答えなのかは分からなかったが、それでも言っておかなければいけない、と彼女は感じていた。
「あんたが教えてくれたものを捜しに行くだけよ。」