心の中の雨の音(詩集)
甘い匂いの
雑踏のなかで
ふと懐かしい匂いを嗅いだ
あたりを見回して
その匂いのもとを探す
あのひとはもう
いる筈も無いのに
雑踏のなかの
その懐かしい匂いを追った
ひとごみかき分けて
まるで猟犬のように
あのひとはもう
いる筈も無いのに
忘れることのない
あなたの甘い匂いを
笑顔を思い浮かべながら
確かに嗅いだ
雑踏のなかで
もう懐かしい匂いは消えた
わたしはたちどまり
匂いは記憶に上書きされる
あのひとはまた
記憶のひととなる
作品名:心の中の雨の音(詩集) 作家名:伊達梁川