心の中の雨の音(詩集)
風が吹いていて
そこは夏の匂いがして
秋の匂いもした
セミ時雨が
スコールのように降ってきて
すべてのことが
どうでもいいような気にさせる
風が吹いていて
また新しい風が吹いてきて
子供の頃の私を運んできた
なぜか私は独りでトンボを追いかけている
風が吹いていて
新しい風が吹いてきても
あのひとの思い出はここになくて
淋しさと安堵の混じった気持ちになる
風が吹いていて
爽やかな風が吹いてきて
私はサルスベリの木のそばで
木になったふりをする
作品名:心の中の雨の音(詩集) 作家名:伊達梁川