「舞台裏の仲間たち」 27~29
しかし、と当の石川さんはその戸惑いぶりを隠しません。
余りにも早い周囲の展開の様子に、さきほどまで意気込んでいた気勢が
しおれるような気配さえ見えてきました。
順平が再び先に語り始めます。
「それらの資料は、座長さんが持ってきてくれたものです。
やはり、どうあっても二人を無事に結婚させたい願っているようです。
そこまでされたら、私にも断る理由などはありません、
嫌というほど資料をあさって、ぜひその黒光を書きあげたいと思います。
茜ちゃんは、実にしっかりしてます。
座長さんをはじめ、劇団員全員を一晩で口説き落として回ったそうです。
本当に、心からあなたと結婚したいんだと思います。
石川さんに協力をするというよりも、
私たちも、これをいいきっかけにしたいと思い始めました。
レイコともまた、実は・・・
急がない関係になりはじめているのです。」
「急がない関係ですか、
ずいぶんとそれはまた、意味深な表現ですが。
具体的にはどんな意味でしょう?」
「結婚と言うのは、
頭で考えて到達をするものではないようです。
熱病みたいに、高熱があるうちに一気に成し遂げたり、
この人だと思った瞬間に
猪突のように猛進をしておかないと、なぜか中断をしてしまいます。
私のその気になって放浪から戻っては来たのですが、
レイコは、出来たばかりのなでしこ保育園の新米保母として
一気に忙しくなり、私も新しく足を踏み入れた、
プラスチック金型の製作という世界で、
仕事に追われるようになってしまいました。
今回のおはなしは、わたしたち二人の結婚を見直す
いいきっかけになるかもしれません。
茜さんが、すべての想いを遂げてあなたのお嫁さんになれるように、
わたしも、全力でこれを書いてみたいと決意をしました。
此処だけの話ですが、自分で納得できるものが書きあがったら
あらためてレイコには、プロポーズをするつもりでいます。
こちらこそ、大変貴重なチャンスを頂いたようなものです
石川さんと茜さんには、とても感謝をしています。」
さらに30分ほど雑談を交わした石川さんが、帰り際に勢いよく
手を差し出しだすと、堅く順平の右手を握りしめます。
あなたとは長く付き合えそうです、出会えたことにもたいへんに感謝していますと、
きっぱりと言い切ったのち、さらに目に力を込め、
「あなたと出会えたことに、私も感謝をしています。
黒光の脚本の完成のためならば、私もどんな協力も惜しみません、
何でも言ってください。
茜を舞台に立たせるためならば、私も何でもやります。」
そう言葉を絞めくくると、
恥ずかしそうに頭を掻きながら、また来ますと元気に病室を後にします。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 27~29 作家名:落合順平