「舞台裏の仲間たち」 25~26
「それはとっても嬉しいけど、
でも、書いてなんかくれるのかなぁ、
黒光の話なんか・・・」
「碌山の女を見て、君も感動したように、
私もまた、同じような感動を受けた。
昨日のおばあちゃんの話じゃないが、黒光と碌山は、
私たちの人生の、思い出に残る素敵な出会いまでも生み出してくれた。
不思議な力を秘めた彫刻作品だし、黒光も面白い素材だよ。
感性や感覚が豊かな人間ならば、
余計にきっと興味を示して、食指も動かすさ。
碌山にはそういう、
信じがたいほどの力がある。
ましてや、その碌山を魅了しぬいた黒光の話だよ、
文才があれば・・・
私が書いてみたいくらいだ。」
「さすがねぇ、
見なおしちゃった。
・・・・ねぇ・・・。」
茜が目を閉じて、寄りかかってきました。
「おいっ、・・・日中だ。」
「いいじゃん、別に。」
「しかし、何処かで人が・・・」
「いいじゃないの、見られても。」
「でもなぁ、」
「歴史に残った、明治の恋物語発祥の地です。
雄大なアルプスの大自然に抱かれて、
若い日の碌山と黒光が初めて出会ったという、記念すべき場所なのよ。
わたしたちの初めてのキッスに、これ以上の格好の舞台はありません。
・・・ねぇ。」
「まいったなぁ・・・」
(27)へつづく
■アイラブ桐生Ⅲ・第一幕・完
作品名:「舞台裏の仲間たち」 25~26 作家名:落合順平