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「舞台裏の仲間たち」 25~26

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 萩原碌山に「こんにちは」と声をかけたのは、
安曇野の名門・相馬家に嫁いできていた相馬良(黒光)です。
 
     ■常念岳  標高:2,857m.
   常念岳は、安曇野の西に連なる常念山脈の盟主です。
   安曇野からは全容が望め、きれいなピラミッド型をしているため、
   一目でその姿と分かる端正な山容をしています。

   山麓では槍ヶ岳・穂高岳よりも知名度が高いといわれるのも
   その山容によるところが大きいと言われています。
   登り下りともに厳しい山ですが、
   それだけに展望には、とても素晴らしいものがあります。

 

 まだ仙台で暮らしていたころの黒光には
密かに恋心を抱いていた、画家の幼なじみがいました。
彼の存在によって早くから彫刻や洋画に対する鑑賞眼が養われ、
これが後に、荻原碌山や他の芸術家たちとかかわる
源泉になったと言われています。

 しかし、想いを寄せたその人が、
黒光の親友と、ぬけがけのような形で婚約をしてしまいます。
失意のうちに、黒光が結婚を決めたのはまだ20歳に
なったばかりの時です。


 北アルプスと呼ばれている山々の麓、
信州は、安曇野の穂高に、油絵1枚とオルガン、わずかな着物を持って、
黒光が名家の相馬家へと嫁いできました。
上田市から、険しい保福寺峠を越えて穂高へと嫁入りをしましたが、
あまりもの荷物の少なさと、その奇抜な内容は嫁入り道具を吟味することを
楽しみにしていた多くの村人たちの度肝を抜いてしまいます。


 新たな一歩を踏み出すべく嫁いできた穂高での生活は、
黒光の切なる希望とはうらはらに、まさに「惨め」の一言に尽きました。
水汲みのための天秤棒は、まともに担ぐこともできず、
養蚕のための桑の葉つみや畑仕事なども、他の人の半分の労力にもならず、
かえって、いたるところで足手まといになってしまいます。