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「舞台裏の仲間たち」 22~24

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 「そうなの・・・それは辛い思いをしましたね。
 碌山の女の彫刻の前で、あんなに真剣にあなたが見つめていたものは、
 やはり、あなた自身の生き方と人生だったようです。
 女が生命を宿して、子供を産むということは
 女性としての最大の喜びだと私は常に信じていましたが。
 そうですか・・・
 時としては、そのような事態もありますね。
 それも、女の性(さが)のひとつということでしょうか。
 それにしてもずいぶんと、辛い思いをしましたね。
 それで・・・この先に、あの人と二人でやっていこうという決心は
 もう、つきましたか。」


 「それを今、こうして思い悩んでいるところです。」


 「そう、
 あなたはやはり、素敵な女性です。
 私には、あなたからそのようなお話を聞いたその後でも
 やはり、十二分に可愛い素敵な女性に見えます。
 余計な事を、もうひとつだけお聞きしますが
 もしかしたら、お母さんやお姉さんに
 このことは、お話をされましたか。」


 「母は早くに亡くなりました。
 相談相手と言えば、姉だけです・・・
 でも姉も含めて、結局、誰にも言えませんでした。
 訳あって私も、ここ5年ほどはアパートでの独り暮らしが続いています。
 何度も考えて、姉に電話もかけましたが
 結局、肝心な話がいつも言えずに、また電話を切ってしまいました。」



 「そう・・・言えなかったの。
 あなたは一人で全部背負いこんだまま、一人で苦しみぬいたわけね。
 それはどんなにつらかったことでしょう・・・
 よく自分自身の心を壊すことなく、辛抱できたと思います。
 たぶん、それほどまでにあなたって言う人は、今日拝見した、
 あの方のために本気なのですね。
 彼は、そのことを全部知っているのですか。」


 「たぶん、知っていると思います。
 私からは、何も告げてはいませんが・・・」


 グラスへ一滴、
いままでこらえていた茜の涙が落ちてきました。
心の中に秘め続けてきた想いの堰が、ついに切れてしまいました。
茜の両目からは次々と、大粒の涙があふれ始めます。


 「それほどまでに辛い思いを、
 あなたは今まで、たった一人で辛抱をしてきたなんて、
 残酷すぎる話です。
 泣きなさい、気の済むまで泣いて、
 いっぱい泣いて、洗い流してしまおうね。
 女は、そういう生きものです。
 生命を育む者に、常に着いて回る宿命です。
 望まれて生まれてくる子供ばかりではないことも、不条理のようですが
 それもまた抗うことのできない、この世の現実です。
 それらのすべてを、女は泣きながら乗り越えて行かなければなりません。
 気持ちよく泣いて、泣き疲れて気が晴れたら
 また自分をとりもどしましょうね。
 若いというのに、あなたは苦労をし過ぎです。
 笑顔がとっても可愛い、素敵なお嬢さんだというのに、
 運命というものは、いつもたいへんに
 残酷です、辛かったですね。」

 「ごめんなさい・・・
 でも今は、こうして安曇野に来られたことに
 心から、感謝をしています。
 さんざんつかえていた、胸のわだかまりが溶けそうです。
 不安で怖くて、自分自身が大嫌いになりかけていたというのに。
 またなんだか、元気がもらえそうです・・・」

 「私も嬉しい。
 何十年ぶりかで、娘が帰ってきたような気がします。
 遠慮しなくてもいいんだよ。
 しっかり泣いたら、笑顔いっぱいで生き返ろうね、
 あたしもしっかり、応援するよ。」

 安曇野の夜が、静かに更けて行きました。


(24)へつづく